6、合宿

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3泊4日はあっという間に過ぎてしまった。 駅までおばあさんに送ってもらって電車に乗り込む。二席ずつ向かい合ったテーブルのあるところに座る。 窓の外ではヒロトくんが手を振ってくれていた。笑顔で送り出してくれる。とても名残惜しい。もっとここにいたかった。それでも手を振ると、やがて電車が動き出す。二人の姿は見えなくなり、自然の風景だけが流れていくのだった。 楽しい時間はとても早く過ぎていく。 でも、思い返してみれば、ちゃんとたくさんの思い出が詰まっていて、とても濃い時間だった。 いろいろな思い出が頭の中に蘇る。 肩を貸してドキドキした行きの電車。 盛り上がったトランプ。 前園先輩と話したビデオ通話。 危ない運転に冷や冷やした大内宿のトマトと奢り。 バーベキューにスイカ割りに花火は本当に楽しかった。スイカ割りが特に。 眠れない夜もあったけど、先生と話して心の整理ができた。 そして、この合宿のメインである天体観測は感動がいっぱいだった。光り輝く星たちが僕の心を照らして、いや、僕の心を照らしてくれたのは八島先輩だけど。幸せなひとときだった。 どんなに楽しいことにも終わりが来てしまうなんて虚しい。 それでもその分、思い出が温めてくれるとポジティブに捉えることにする。 「いやあ、それにしても八島さんめっちゃ怪力だったよね。意外だったなぁ」 電車がトンネルに入ったところで、僕の隣に座っていた先生が先輩の怪力いじりを始める。スイカ割りの後から何かといじり倒していた。 「だから、違いますって!もう、そんなに言われたらそろそろ怒りますよ」 目の前に座っている先輩がムッとする。 「八島さんってどんなふうに怒るの?見てみたいかも」 また先生が適当なこと言ってるけど、僕も同意。 だって、先輩に怒られてみたいし。 「先生!もう、助けて綾瀬くん」 「僕も先輩が怒るところ見てみたいです」 「綾瀬くんまで…。もう、私拗ねました。ふて寝します。おやすみなさい」 「ごめんなさい、ごめんなさい!僕、もっと先輩と喋りたいんで寝ないでください。ほら、先生も謝って!」 先生の肩を叩くと、先生は「え、うん」って、しょうがないから謝ってやるかみたいな感じで言った。 「ごめんね〜。でも、おれは事実を言っただけなんだけど」 「一言余計です」 横から先生の胸にツッコミを入れると、先輩は笑ってそれを見ていた。 「なんだか、機嫌直りました。二人を見てるとおもしろくて、なんか元気になります」 先輩の生きる活力を与えられるなら、いくらでも、先生を叩こう。 そこから先は三人でひたすらに思い出を語った。 最後の乗り換えで、最寄駅の路線になる。 僕は、無意識のうちにマスクを取り出してつけていた。 車内は並びの二席が空いていて、先生が僕と先輩を座らせてくれた。この車両は他に空きの席が無いので、先生は別車両に行くという。 「じゃあ、ここで解散みたいなもんかな。家に帰るまでが合宿だから…」 そう言って先生は自分の言葉を鼻で笑ってから続けた。 「気をつけて帰ってね。じゃ、また今度」 さようならと言って別れる。 先輩と二人きり。 でも、合宿前よりも緊張しない気がする。 確実にこの合宿で距離が縮まったんだと思う。 「綾瀬くん」 先輩が控えめに僕の名前を呼んだ。 「なんですか?」 僕が聞くと先輩はためらいがちに言うのだった。 「…肩、借りてもいい?」 上目遣いで言われる。 あ、死んだ。だから、先輩、事前に可愛いことしますよって言ってくれないと、僕は耐え切れませんって。 まさか、肩貸しイベがここで発生するとは思わなかった。 「もちろん、どうぞ!」 明るく答えたけど、心臓はバクバクしていてかなりやばい。 先輩はありがとうと言って、安心したように微笑んだ。 コトンと首を傾けて、僕にもたれかかる先輩。 右肩に重みが伝わってもっと心拍数が上がる。音が聞こえないかと心配になるけど、そう思えば思うほど、鼓動が早くなる。 でも、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。 寝てる。無防備な姿にキュンとしてしまう。 ジャンプーも僕と同じ香りがするから、なんか、余計にヤバい。
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