7、夏休み後半

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そして、待ちに待った花火大会がやってきた。 最寄りの駅前で待ち合わせしている。ちょうどお盆に入ったところで、人が溢れかえっている。 先輩の浴衣姿が楽しみだけど、それよりも自分が浴衣をちゃんと着こなせてるかが不安だった。 色はネイビーで大人しめなやつに白の帯で涼しげにしてみたけど、何よりもマスクをしてないのが落ち着かない!さすがに、浴衣とマスクは似合わなすぎて諦めた。黒ならいいかなって思ったけど、暑いし、邪魔だしやめた。その分、髪の毛のセットはいつも以上に時間をかけたけど、女顔が隠せるわけじゃないから、ちょっと怖い。 駅を出ると浴衣の人がいっぱいいて、先輩を見つけられるか不安になったけど、すぐに見つけることができた。だって、先輩だけ輝きが違う。 「先輩、お待たせしました」 いつもよりもさらに美しい先輩は、薄く青みがかった白に、大きな菊の花が咲いた爽やかで上品な浴衣を着ていた。古典的な要素が強いながらもモダンで華やかで眩しい。髪の毛もふわっとさせながら一つにまとめていて、花飾りがとてもよく似合っていた。 一言でまとめると最高に美しくて可愛い。 「私も今来たところだよ。綾瀬くん、浴衣似合うね」 「僕なんか全然です。先輩の横に並んで歩くのが恥ずかしいくらいです」 「いやいや、私が綾瀬くんに釣り合うか心配だよ…」 本当に先輩は自分の可愛さを自覚した方がいい。なんなら今も近くの人たちが先輩の方をチラチラ見て可愛いって言ってる。 先輩が変な輩に声をかけられないか心配だ。 二人で並んで歩きながら会場を目指す。 「人がいっぱいだね」 「ですね。会場はもっとぎゅうぎゅうかもしれないです」 案の定、出店が並んでいる通りは歩くのもやっとだった。 「綾瀬くん、はぐれないように…袖掴んでてもいいかな」 「はい、もちろんです。はぐれたら会えなくなりそうですもんね」 そう言って僕が袖を差し出すと先輩がギュッと掴んだ。可愛すぎる。 本当は手を繋いでいたいところだけど、まだできない。 人をかき分けながら前に進んでいく。 「何か気になる屋台とかありますか」 「せっかくだから、色々やってみたいなって思ってて」 先輩の提案でいろいろなことをした。 まずは射的。僕も初めてやったけど、難しすぎて全然当たらない。それにあたっても落ちないし結局参加賞だけ。それでも屋台のおじさんが、先輩にはおまけで大きめのクマのぬいぐるみをおまけでくれた。 そのあとお面を買って二人で付けてみた。先輩は可愛いらしい狐のお面。で、僕はなぜか店主のおばさんにひょっとこをオススメされてそれを買った。売れてないのを押し付けられたのかなって思ったけど、なかなか頭の悪そうなお面の顔が意外と気に入ったからまあいいかと思った。うまい具合に頭の後ろにつける。 先輩には僕が付けてあげた。頭の横にくるように固定する。手先だけは器用でよかったってよく思う。 二人で焼きそばとかお好み焼きとかじゃがバターとか色々食べて、最後にかき氷を買った。シロップかけ放題だったからとりあえず全部かけてみる。 イチゴのシロップだけをかけていた先輩が、僕のかき氷を見て、かけすぎだよと笑っていた。 先輩のは鮮やかなピンクだったけど、僕のはなんだか毒々しい色になってしまっていた。でも、食べてみると味はいつもと変わらない。かき氷シロップが全部同じ味だっていうの本当だったんだと思った。 少し人の少ないところに行って、花壇の出っ張りに二人で腰をかける。 「綾瀬くん、唇の端っこがすごい色になってる。かき氷と同じ色」 そう言って笑いながら、先輩は手鏡を僕の顔の前に出してくれる。たしかに青緑色になっていた。先輩からもらったウェットティッシュで拭いたら取れたけど、舌は相変わらず不気味な色のままだった。先輩も舌が真っピンクになってしまったらしくて二人で笑い合う。 そんな楽しいひとときを過ごしていたのに…いきなりぶち壊された。 「ねえ、お姉さんたち暇?」 大学生くらいのチャラチャラした男二人に声をかけられる。 最悪だって思った。
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