8、二学期

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楽しかった夏休みが終わりを告げ、今日から憂鬱な二学期が始まる。 講堂に集まって長い始業式をする。 今回の目玉は生徒会役員である奏のスピーチだった。(奏は肩書きは生徒会だけど、一度も生徒会に参加したことはないと言っていた。) 奏は四虎家との兼ね合いで、二学期からは休むことなく学校に行くように義母から命じられていた。 奏が昨日5分足らずで考えたスピーチを披露すると、目に入る限り全ての生徒や先生が心からの拍手を送っていた。 僕はその様子が面白くて手を叩き、心の中で存分に笑った。 最後に交友学生と優良学生が紹介された。 うちの学校には希望者が系列校の『ハナノミチ国際高校』で、2年生の二学期から3年生の1学期の間の丸一年学ぶ交友学生というシステムと、『ハナノミチ工業高校』の2年生から最も優秀な生徒が『ハナノミチ高校』に編入することができる優良学生というシステムがある。 今回は『ハナノミチ国際高校』から帰ってきた3年の女子生徒と、『ハナノミチ工業』から編入してきた2年の生徒が紹介された。 それだけでなく、今回はアメリカにある系列校からも生徒が転入してくるらしく、その生徒だけはまた個別で紹介された。 その顔を見て僕は目を疑った。 そこには僕のかつての親友だった遊壱光輝(ゆいちこうき)が昔と変わらない眩しい笑顔を浮かべて立っていた。 とてつもなく心がざわつく。 始業式が終わると、逃げるようにして講堂から飛び出した。 「真鳥(まとり)!!」 その名前で僕のことを呼ぶのはあいつしかいない。真鳥は僕の前の名字だ。 こんな人混みの中で迷わず僕を見つけてくるなんて、そういうところがあいつらしくて嫌いだ。 「もう綾瀬だから。真鳥って呼ばないで」 僕はそっけなく返した。 あいつはあからさまに傷ついたような顔をした。 そうだよ。お前も僕が傷ついたみたいにもっと傷付けばいいと思う。 「そうか、そうだったよな……」 周りの目が痛くて僕は背中を向けて歩き出した。 うしろから右腕を掴まれる。 「離して」 「俺、ずっと謝りたかった」 「聞きたくない」 僕は乱暴に手を振り払って自分の教室に逃げた。 運がいいことに、あいつのクラスは僕のクラスから一番遠かった。
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