8、二学期

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それから、二学期は散々な日々が続いた。 部活動は10月の下旬にある文化祭の準備がメインだったけれど、八島先輩は生徒会が忙しくてほとんど会えなかった。 前園先輩や先生と過ごすのももちろん楽しかったけれど、八島先輩がいないと楽しさも半減してしまう。 それに、クラスの方の準備でも雑用を押し付けられて毎日帰りが遅くなった。 今日もすっかり暗くなった廊下を歩いていると、後ろから知らない声に呼び止められた。 「その模造紙、取ってもらえないかしら」 いや、聞き馴染みがないだけで、最近聞いた声だと思い直す。 振り返ると、両手でダンボールを抱えた四虎生徒会長が階段の上に立っていた。 僕が模造紙を段ボールに入れると四虎会長は僕の顔を見て会釈した。 「あら、先日はどうも」 どうやら僕のことも覚えてくれているみたいだ。 僕は「どうも」と返してそのまま帰ろうとしたけれど、四虎会長の持っている段ボールの「生徒会室」という文字を見て思わず尋ねてしまった。 「それ、生徒会室まで運ぶんですか?」 「そうよ。もしかして運んでくださるのかしら」 「はい!」 もしかしたら、生徒会室に八島先輩がいるかもしれない。 そんな淡い期待を込めて段ボールを受け取った。 そして、そんな僕の願いは叶った。 生徒会室では八島先輩と奏がなにやら真剣な面持ちでホワイトボードを見つめていた。 仕事の邪魔をしてはいけないので話しかけられはしなかったけど、姿を見られただけで満足だ。 しかし、八島先輩に見惚れていたせいで、がいることに気が付かなかった。 あいつは一瞬、真鳥と言いかけて、すぐに綾瀬と訂正した。 その声で八島先輩と奏も僕の方を振り返る。 2人が僕が来ていることに気がつく。 そんな2人に四虎会長が言った。 「私の荷物を運んでくださったの」 八島先輩と話したい欲と、今すぐにでもあいつから離れたい衝動がぶつかり合ってよくわからなくなる。 「唯我とユイは知り合いなのか」 奏が聞いてくる。 『ユイ』。昔は僕もその名前を何度も呼んだ。 つらいとき、その名前を呼べばすぐに駆けつけてくれた。 けど、今の僕にとってその名前ほど憎いものはない。 僕は何も答えなかったけど、あいつが代わりに答えた。 「小中って同じだったんです。でも、俺が転校してからは別々で…」 「じゃあ、僕もう行きますね」 段ボールを置いて足早に出て行ったのに、あいつが追いかけて来た。 「お前が大変なときに何も言わずに転校してごめん。お前の力になるって言ったのに」 「何も聞きたくないって言ったじゃん。勝手に喋んなよ」 こいつと話していると、つい中学生のときみたいな話し方になってしまう。 昔の自分が引きずり出されているみたいで嫌だった。 「ごめん」 「顔も見たくないし、声も聞きたくない。名前だって忘れたい。お前といるとみじめな自分を思い出して嫌なんだよ」 あいつはもう一度ごめんと言って口をつぐんだ。 もう、あいつは僕を追ってこなかった。
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