8、二学期

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最悪なときに最悪なことは重なる。 文化祭3週間前。 登校するとすぐに違和感を覚えた。 みんなが僕を見てヒソヒソしている。 教室に着くと、黒板に大きくこう書いてあった。 『綾瀬唯我 おじさんとホテルデート』 そして、その文字を囲むように何枚もの写真が貼ってあった。 僕が知らないおじさんと一緒にホテルに入って行くところが何枚も写っていた。 意味がわからなかった。 頭が真っ白になる。 「その顔使っておっさんに可愛がってもらってんだ?」 クラスのリーダー格が蔑みと嘲笑の混じった声で揶揄してくる。 呼吸が浅くなっていく。 僕は必死に首を横に振った。 「おっさんに抱かれてるときだけは存在価値を見出せるって?マトリちゃん?」 「なんで、その名前…!」 新聞のようなものをひらつかせている。 そこには僕が「マトリ」と名乗って男を引っ掛けていると書いてあった。 「あー、傷ついた?なら、また慰めてもらってこいよ。おじさんたちに」 手が震えた。 いじめられていた日々が一気に蘇ってくる。 1時間目が始まる前に、僕は一枚一枚写真を剥がしてガムテープでぐるぐる巻きにしてゴミ箱に捨てた。 でも、廊下にも張り出されていて、どうして良いかわからなくなった僕は保健室に逃げた。 本当は今すぐにでも帰りたかったけど、そんな元気もなかった。 ベッドにもぐって自分の体を抱きしめる。 いったい、だれがこんなことをしたんだろう。 誰も僕に興味なんてなくて、空気みたいに扱うだけだったのに。 「唯我くん」 いきなり名前を呼ばれた。 八島先輩の声だ。 先輩も僕の写真を見たのだろう。 あれを見て何を思ったのか、考えるだけで怖い。 「学校に貼り出されていた写真は回収したよ。もう一枚も残ってないよ」 生徒会メンバーの八島先輩や奏や会長やユイが回収してくれたという。前園先輩や綾瀬先生も協力してくれたらしい。 涙が出て来た。 八島先輩は少しの沈黙のあと、また言葉を続けた。 「こんな報告だけじゃなんの気休めにもならないよね」 そんなことないって言いたいけれど声が出せない。 1時間目開始のチャイムが鳴る。 それでも先輩はずっと僕のそばにいてくれた。 僕が啜り泣いている間ずっとブランケット越しに背中を撫でていてくれる。 「僕、あんなことしてない。なんであんな写真を貼られたのかもわからない。誰がやったのかも検討もつかなくて。怖い」 声が震えた。 八島先輩の手つきが優しくて涙が止まらなかった。 「うん。唯我くんが違うって言ってるんだから。私は信じるよ」 その言葉にどれほど救われたかわからない。 しばらくして、放送の呼び出しがあり、僕の名前が繰り返された。 僕は八島先輩に支えられながら生徒指導室に向かった。
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