8、二学期

6/7
前へ
/80ページ
次へ
ここのところずっと調子が悪い。 やることなすこと全部がうまくいっていない気がする。歯車が噛み合ってない。 少しずつズレが生まれて、生活をかき乱している。 原因はわかってる。 八島先輩に会えないこと。 それと、ユイに出会ってしまったせいだ。 精神安定剤という言い方をしていいのかわからないけど、僕にとって八島先輩はまさにそれだ。 八島先輩がいないと僕の心は不安の侵食を止めることはできない。 昔はユイが精神安定剤だった。 ユイがいるから学校にも行けたし、父親の仕打ちも耐えられた。 けど、ユイは僕に希望を見せておいて、無責任にも僕を置き去りにして逃げ出した。 それからユイは僕が葬り去りたい一番嫌な記憶を呼び覚ます憎い存在になった。 不安定な心をかき乱されて、僕は僕がわからない。 「唯我くん?」 今日も1人で黙々と地学室で作業をしていたら、目の前に女神が現れた。 「先輩…」 「いつもありがとう。いろいろ任せっきりでごめんね。もう体調とかは平気?」 「はい」 嘘だ。嘘すぎる。 八島先輩が目の前に存在するだけで、僕の眼に映るだけで、憂鬱がすべて消え去ったかのように錯覚する。 「今日はここで一緒に作業していてもいいかな。ううん。ここにいたいから、いるね」 八島先輩はそれ以上何も言わなかった。 何も聞かずにただそばにいてくれた。 それが僕には涙が出るほど嬉しかった。 「大丈夫だよ」 先輩は優しい顔をして僕の背中を撫でてくれる。 たとえ、先輩に面倒をかけていて困らせてしまっているとしても、今日は遠慮なんてしていられなかった。 もっと先輩に優しくされたい。 それから文化祭までの間、先輩はなるべく一緒にいる時間を作ってくれた。 その気遣いが身に染みると同時に、先輩に無理をさせてしまっている罪悪感があった。 一緒にいる時間は増えたけど、先輩は僕に遠慮がちになった気がする。 それもそうだ。 僕みたいな相手の対応に困らない方がおかしい。 僕は先輩の無邪気な笑顔が見たいと思ってしまうけれど、それはあまりにもわがままだと自覚している。 そんな日々を過ごしていたらあっという間に文化祭の前日になった。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加