8、二学期

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「あなたひとり?」 明日に向けての飾り付けをしていると、四虎会長がバインダー片手に地学室に入ってきた。 明日の本番の前に各教室を見回っているとのことだ。 相変わらず洗練された立ち振る舞いで、このボロボロの地学室さえ優雅に見えてくる。 「はい、僕だけです」 八島先輩は相変わらず生徒会の仕事で忙しいし、前園先輩は夏に骨折した足の経過診察で抜け出していて、あと一時間もしたら帰ってくるらしいけど今はいない。 「あの、ありがとうございました。写真の件」 四虎会長も写真を剥がしたり、それがデマだって証明したりするのに力を貸してくれたと、八島先輩から聞いた。 少し言うタイミングが遅れてしまったけど伝えられてよかった。 「犯人特定まで至らなかったことが残念ね」 『犯人』という言葉を聞くと僕の中にユイの顔がチラつく。 なんの証拠もない。でも、ユイが犯人なのではないかという疑念が僕の頭で渦巻いている。 「犯人に心当たりがあるのかしら」 四虎会長は僕の顔を見るなりすぐに何かを察したらしい。 そして、僕が答えるよりも先にこう言った。 「遊壱さん」 四虎会長の口からユイの名前が出てくるとは思っていなくて、僕は目を見張ってしまった。 僕の反応を見るなり、四虎会長はゆっくりとうなずいた。 「証拠はないのだけれど、写真の回収や解析の段取りが妙に早かったことが気がかりだったの。まるで、犯人があなたじゃないとわかっている人の行動に見えたわ」 四虎会長の言葉で、今まで僕の中で不確定だったユイへの疑念が確信へと変わった。 やっぱりユイは信用できない。 「確信的な証拠もないのに、長い話を聞かせてしまったわね。それより、もうすぐあすかさんも来るはずよ」 その言葉を聞いてすぐに笑顔になってしまう。 「あすかさんも最近は笑顔が増えているのよ」 八島先輩が笑顔でいるという話を聞いて嬉しい反面、僕の前ではずっと無理をして笑顔を作っているように見えることが気がかりだった。 今はこの僕が八島先輩の心労になってしまっているのではないかと不安で仕方がない。 いつか避けられたり、見捨てられたりする日が来るかもしれない。 八島先輩に限ってそんなことはないと信じているけれど、心が脆い僕はいつも最悪の場合を考えてしまう。 「きっと、奏さんのおかげね」 なぜ、そこで兄の名前が出てくるのかわからなくてハテナが浮かんだ。 「奏、ですか…」 「ええ。2人ともとても仲が良さそうよ。あんなに生き生きしたあすかさんも奏さんも見たことがないわ」 八島先輩と奏が仲良くしている様子どころか、話しているところすら想像がつかない。 「そうですか…」 なんだかとてもモヤモヤする。 心に渦巻いて離れない負の感情がどんどん濃くなるのを感じる。 僕はそれを必死に押し込めた。 この黒くてドロドロした感情が爆発したら、きっと僕が僕でなくなってしまう。そんな恐怖がずっとある。
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