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裏の扉から体育館に入ると、偶然八島先輩もそこにいた。備品を整理しているように見える。
ステージを挟んで奥にいるから向こうからこっちは見えてないみたいだった。
「今の時間、あすかさんに休んでもらう予定だったのに、ずっと働かせてしまったから、後夜祭の仕事は免除しないとね」
四虎会長はそんなことを言っていた。
八島先輩と後夜祭を過ごすチャンスができたと思って僕は胸が躍った。
僕と会長も段ボールの中の荷物の整理が終わって、八島先輩に声をかけようとした。
けれど、八島先輩の隣に奏がいるのを見つけた瞬間、僕の体は動かなくなってしまった。
「あら。あすかさんを呼び出したのは奏さんだったようね」
四虎会長と違って、僕は平然としていられなかった。
八島先輩の横に奏がいるのは、ものすごく嫌な感じがした。
何を話しているのかわからないけど仲が良さそうで、僕の心臓が張り裂けそうになった。
「あすかさん、奏さん、お疲れ様。備品整理ありがとう」
八島先輩は会長と僕に気がつくと「お疲れ様です」と挨拶してくれたけど、奏は会長の姿をとらえると、すぐに数歩下がってその顔に嫌悪感をにじませた。
その様子を見ても四虎会長は不快感を見せるどころか、むしろ嬉しそうに奏にほほえんだあと、八島先輩の方を向いた。
「あすかさん、準備のときから今日まで一番仕事をしてくださって本当に感謝しているわ。どうか、後夜祭の時間だけでも仕事は休んで文化祭の時間を楽しんでちょうだい。むしろ、それが仕事だと思って」
八島先輩は申し訳なさそうな顔をしていたけれど、すぐに笑顔になって「ありがとうございます」と口にした。
僕はやるなら今だと思った。
奏が見てる今だと。
「八島先輩」
僕の呼びかけに八島先輩は首を傾げた。
人の話を聞くときに、まっすぐと目を見つめてくれるその表情が本当に愛しい。
「よかったら、後夜祭の時間、僕と一緒に過ごしてくれませんか?」
「もちろんだよ」
嬉しい。
けど、素直に喜べなかったのは、返事に間があったからだろうか。
それとも、ほんの一瞬、八島先輩の瞳が、奏の方を向いた気がしたからだろうか。
僕の中の黒がさらに濃くなった気がした。
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