9、文化祭

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集合の時間になっても八島先輩はこない。 連絡もない。 僕は浮かれた生徒たちで溢れた体育館の中をかき分けるようにして進んだ。 後夜祭開始の音楽が流れる。 次第に僕の体はバンドが掻き鳴らす重低音から遠ざかっていった。 すっかり暗くなった外には人の気配がない。 何度先輩に電話をかけても繋がらない。 通知も来ない。 どうして来てくれないのだろう。 その場で待っていた方が効率的だとわかっていても、動かずにはいられなかった。 今すぐに会いたい。 先輩に会えるドキドキ感や高揚感はない。 あるのは焦りだけだった。 僕には先輩が必要なのに、僕から先輩が遠ざかって行く気がして、胸が張り裂けそうだった。 「どうしたの……?」 不意に声をかけられたが無視した。 相手がユイだったからだ。声でわかる。 今会いたいのはお前じゃない。 お前にはいつだって会いたくない。 「もしかして、八島先輩を探してる?」 しまった、と思った。 無視しようとしたのに先輩の名前を聞くと体が一瞬反応してしまう。 「八島先輩なら奏先輩と一緒に、」 『奏』の名前を聞いた瞬間、どす黒い感情が押し寄せ、気がつけば右手でユイの胸ぐらを掴んでいた。 「真鳥、苦しい」 「どこにいるんだよ」 「……生徒会室」 ユイの体を突き飛ばすようにして離すと、体は一目散に生徒会室へ駆け出していた。 体が完全に『僕』のコントロールを失っている、そんな感覚だった。 息切れで酸素が回らないせいか、それともこの心に渦巻いている黒い感情のせいか、意識が断片的になっていく。 最後に見たのは、蛍光灯に照らされた八島先輩と奏の笑い合う姿だった。
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