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なんで、僕には見せない素の笑顔で、奏には笑いかけるの?
なんで、奏は八島先輩の体に触れているのに吐かないの?
お互いがお互いの特別なの?
認めない。
だって、僕には八島先輩しかいない。
八島先輩が奪われてしまったら、僕の心は保てない。
僕には八島先輩しかいない。
奏はなんだって持っている。
なんだって持っているくせに、僕の唯一のものを片っ端から無意識に奪っている。
奏は、父親も、絵も、八島先輩も、全部奪う。
ただでさえ何もない僕から、何もかも奪い尽くす。
最初は、奏に認められたい自分がいた。
みんなが偶像のように称える奏の特別になれば、自分の価値が認められると思っていた。
でも、違う。
奏は僕を認める存在なんかじゃない。
僕から全てを奪う存在。
敵だ。
敵は排除しなければならない。
そう思った瞬間、心の黒い感情が溢れ出して、頭の中がぐらりとまわった。
体のコントロールが完全に効かない。
主導権を奪われた。
僕の意識はここにいるのに、違う何かが表にいる。
僕はそれをマトリと呼ぶことにした。
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