10.結婚しない理由(慶弥視点)

1/5
678人が本棚に入れています
本棚に追加
/142ページ

10.結婚しない理由(慶弥視点)

 深夜の高速に乗り、到着した隣県の見慣れたマンションの駐車場に車を停めると、エントランスの中に入り部屋番号を押してインターホンを鳴らす。 『……はい』 「俺だよ。慶弥」 『すぐ来てくれると思ってた』 「開けてもらっていいかな」 『部屋の鍵も開けとく』 「分かった」  オートロックの自動ドアが開くと、中に入ってポストを覗き、貯まった郵便物を回収してからエレベーターに乗り込む。 (この様子だと、全然外に出てないな)  ダイレクトメールやチラシに混ざった郵便物をその場で仕分けると、八階でエレベーターを降りて廊下の突き当たりの部屋に向かう。 「ふう……」  見慣れた玄関ポーチの門を抜けると、思わず溜め息のような重たい息を吐き出す。 (しっかりしろ)  自分を叱咤してドアに手をかけると、彼女が言った通り玄関のドアに鍵は掛かっていない。 「お邪魔します」 「慶弥くん! 来てくれると思ってた」 「大袈裟だな。とりあえず家に入れてくれる?」  ドアが開くなり、俺に飛びついてきたのは、十年来の付き合いになる、俺より二つ上の女性。藤村(ふじむら)舞美(まみ)さんだ。 「ごめん、ごめんね。私……私また」 「大丈夫だから、とりあえず落ち着いて」  今は落ち着いている彼女だが、精神的に不安定になると、感情的になって暴れたりすることがよくある。  そうさせないためにも、彼女と相対する時は細心の注意を払う必要がある。だから慎重に声をかける。 「少し外の空気入れるようか」 「……そうね」  部屋の中は相変わらず散らかっていて、ゴミもろくに捨ててないのか、腐敗臭のような不快な匂いが充満している。 「座って待ってて。俺は少し掃除をするよ」 「……ありがとう」  舞美さんをソファーに座らせると、散らかったゴミを片付けて、この時間なのでフロアモップをかけて部屋中を掃除する。  そしてそれが終わるとキッチンに移動して、これまたシンクに溜まったままでカビの浮いた食器を洗ってから、漂白剤を溶かした水に浸しておく。 「舞美さん、円佳(まどか)の晩ご飯はどうしたの」 「ああ、そういえばまだだったわ」
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!