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10.結婚しない理由(慶弥視点)
深夜の高速に乗り、到着した隣県の見慣れたマンションの駐車場に車を停めると、エントランスの中に入り部屋番号を押してインターホンを鳴らす。
『……はい』
「俺だよ。慶弥」
『すぐ来てくれると思ってた』
「開けてもらっていいかな」
『部屋の鍵も開けとく』
「分かった」
オートロックの自動ドアが開くと、中に入ってポストを覗き、貯まった郵便物を回収してからエレベーターに乗り込む。
(この様子だと、全然外に出てないな)
ダイレクトメールやチラシに混ざった郵便物をその場で仕分けると、八階でエレベーターを降りて廊下の突き当たりの部屋に向かう。
「ふう……」
見慣れた玄関ポーチの門を抜けると、思わず溜め息のような重たい息を吐き出す。
(しっかりしろ)
自分を叱咤してドアに手をかけると、彼女が言った通り玄関のドアに鍵は掛かっていない。
「お邪魔します」
「慶弥くん! 来てくれると思ってた」
「大袈裟だな。とりあえず家に入れてくれる?」
ドアが開くなり、俺に飛びついてきたのは、十年来の付き合いになる、俺より二つ上の女性。藤村舞美さんだ。
「ごめん、ごめんね。私……私また」
「大丈夫だから、とりあえず落ち着いて」
今は落ち着いている彼女だが、精神的に不安定になると、感情的になって暴れたりすることがよくある。
そうさせないためにも、彼女と相対する時は細心の注意を払う必要がある。だから慎重に声をかける。
「少し外の空気入れるようか」
「……そうね」
部屋の中は相変わらず散らかっていて、ゴミもろくに捨ててないのか、腐敗臭のような不快な匂いが充満している。
「座って待ってて。俺は少し掃除をするよ」
「……ありがとう」
舞美さんをソファーに座らせると、散らかったゴミを片付けて、この時間なのでフロアモップをかけて部屋中を掃除する。
そしてそれが終わるとキッチンに移動して、これまたシンクに溜まったままでカビの浮いた食器を洗ってから、漂白剤を溶かした水に浸しておく。
「舞美さん、円佳の晩ご飯はどうしたの」
「ああ、そういえばまだだったわ」
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