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1.恋するより楽しいこと
ワインリストの中からお客様の要望に沿った銘柄をピックアップすると、味や香り、産地についての説明をしながら、テイスティングでお好みのボトルを選んでいただく。
この瞬間は、いつになっても緊張するし、同時にとても昂揚する時間でもある。
「随分と爽やかですね」
「はい。華やいだ香りと甘い口当たりの中に、爽やかな酸味があるのが特徴です。本日のディナーとはとても相性が良いかと存じます」
「じゃあ、この白ワインにします」
「かしこまりました」
結婚記念日のお祝いにいらしたご夫婦に、ご提供する銘柄についての話題を振りながら、程よく冷えたワインをグラスに注ぐ。
私、赤西瑞穂はルサルカ・リゾートホテルのレストランで働くソムリエだ。
都内郊外の自然が豊かな土地に、およそ二百ヘクタールの葡萄畑を抱えるワイナリーを併設した、西洋の田園を思わせる癒しの空間。
このホテルを運営する、都内に日本支社を構えるシュルツナー・ジャパン株式会社はドイツのバーデン地方を本拠地とし、ワインと洋酒の輸入・販売・卸しを行うワイン商社。
そして日本国内にはこのホテルと、四店舗のワインバーを直営店に持つ。
そんなルサルカ・リゾートホテルの目玉となるのは、シュルツナー本社が取り扱うドイツワインに加え、ホテルの目の前に広がる葡萄畑で育てられたカベルネ・フラン、アルバリーニョなどの品種を使用して造られた国産ワインだ。
「ごゆっくりお楽しみください」
適度な会話でその場を和ませ、ホールスタッフとアイコンタクトを交わすと、タイミングを見計らってテーブルを回り、グラスが空いていないか注意を払いながらお客様の対応にあたる。
そうして丸一日の業務を終える頃には二十三時を過ぎ、ホテルの敷地内に建てられた社員寮にようやく帰宅するのが一日の流れだ。
実のところ今日まで体調を崩した同僚のフォローでシフトが変更になって、連続勤務はいよいよ十日目。正直なところ久々のハードスケジュールに、体は疲弊し切っている。
「あぁあ、疲れた‼︎」
家に帰るなり着の身着のままベッドに倒れ込むと、天井を仰いで大きく伸びをする。
ルサルカ・リゾートホテルには、主にワイナリー担当と、ホテル内のレストラン担当の私を含めた七人のソムリエが在籍している。
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