2.幼馴染

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2.幼馴染

「真優、おはよ」  翌朝、登校しようとしたら、隣の家から幼馴染が出てきた。会いたいわけでもないのに会ってしまうのは何故だろう。いつもは朝練があるからと、同じ部活の波留と先に行くのに、今日に限って。  黙って歩き出すと、顔をぐっと近づけてくる。 「どうしたの? 目が腫れてる……。可愛い顔が台無しだよ」  可愛い、を使う相手が違う。いつもみたいに、群がってくる女の子たちに言えばいいのに。 「(もとい)、部活は?」 「え? ああ、寝坊しちゃってさ。朝練は、さぼり」  こちらをじっと見つめる顔は、誰もが見惚れるほど整っている。すっと筆で書いたような眉に、長い睫毛。色素の薄い瞳と柔らかな髪は、日本人とは思えない。いつも微笑を絶やさない幼馴染は、男女を問わず人気がある。  長い指が、僕の腫れた瞼に触れた。ちょっと待ってて、と呟いて基は出てきたばかりの家に戻る。先に歩き出すと、すぐに追いつかれた。 「真優、いいかな。ちょっと冷たいけど」  走ってきた基が手に持っていたものを、僕の目に当てた。ひんやりとした感触に、ぶるっと体が震える。凍らせた保冷剤がミニタオルでくるまれていて、目に当ててもらうと少しだけ楽になる。 「ごめんね、嫌だった? 大丈夫?」 「……うん」  基はまるで母親が小さな子どもの世話をするように、僕の世話を焼く。  今みたいに先に歩きだすと波留は怒るのに、基は少しも怒らない。僕と歩く時は必ず歩幅を合わせて自分が車道側を歩くんだ。基は驚くほど足が長いから、僕に合わせるのは大変だと思うんだけど。ただ、基と一緒にいると、必ず誰かに割り込まれたり、後でこっそり意地悪をされて面倒なことになる。  波留と基と僕。小学校の頃は三人一緒が当たり前だった。  勉強もスポーツも出来る二人といると、すぐに周りに人が集まってくる。僕は賑やかな中で過ごすのは好きじゃなかったし、結構な頻度で波留と間違えられるのが嫌だった。幸い、高校では一年の時から僕だけクラスが違った。僕は部活にも入らなかったから、二人といる時間は激減した。  波留たちはクラスが別れたことに不満そうだったけど、どうなるものでもない。新しい友達が増えるにつれ、人はそちらに目が向くものだ。基と顔を合わせる機会は、ほぼなくなった。だから、一緒に歩くのは本当に久しぶりで、忘れていたんだ。自分がどんなふうに人から思われているのかを。
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