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「この傘あげるよ。」
「え?」
いきなりだったから、それしか言えなかった。
「僕、車だし家近いから。」
黒いスーツ、黒いシャツのその男性はそれだけ言うと傘をおれに渡して立ち去った。
おれは呆然とそこに立ち尽くした。
傘をさして帰ったものの、この傘をあの人に返さなきゃって思って。
それから、毎日放課後、傘を持って彼をあのケーキ屋の軒下で待ち続けた。
何日か経った。
彼じゃない男性がおれの前に立ちはだかった。
「お前、このところずっとその傘持って待ってるな。何でだ?」
「傘を返したくて。」
「その傘、オレが返しといてやる!」
彼はおれから傘を取り上げると車でさっさと行ってしまった。傘にはお礼にプレゼントを入れた袋をくくりつけてあったんだけど、多分あの感じじゃ黒い傘の人には渡らない気がした。
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