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夫婦のフリ
朝起きると、アイザックはもう出掛けていた。
「なんだよ、起こせばいいのに」
リアンが一階に下りると、テーブルの上に目玉焼きとソーセージがあった。
「ふっ、焦げてるし」
リアンは昨夜のことを思い出し、「ハア」と大きなため息をついた。
「あんな醜態をさらすなんて……あいつ、好きって言ったよな。指輪を用意してたってことは、前からプロポーズするつもりだったのか?」
アイザックの執拗な愛撫を思い出し、自然と身体が火照ってくる。
「はあ、いやらしいことばっかり思い出しちゃう……俺って淫乱だったのかなあ。でも、変態に触られたときは気持ち悪いだけだったし……俺、アイザックのこと、好きなのかな」
まだ恋愛したことのないリアンには、自分の気持ちがよくわからなかった。
***
アイザックが休みの日に、指輪をはめて一緒に出掛けることにした。
ふたりが夫婦だと街の人達にアピールするのが目的だ。
「おい、手を繋ぐことはないんじゃないか?」
「新婚なのに離れて歩いてるほうが不自然だよ」
「そういうもんか?」
(うちの嫁、ちょろくて可愛い……)
アイザックがひそかに喜びを噛みしめる。
恋人繋ぎで街を歩くと、あちこちから生暖かい視線が飛んでくる。
「今日はデートかい。仲がいいねえ。旦那、花でも買ってやりなよ」
「じゃあ、赤い薔薇をもらおうかな」
「よお、お似合いだね」
「ふふ、そう見えるか? 苺のケーキをホールでもらおう」
「綺麗な奥さんに素敵なネックレスはどう?」
「見る目があるな。それももら――」
「アイザック、何でも買おうとするな! みんなもこいつをおだてないでよ」
「やだ、リアンちゃん怒らないで~」
「悪かったよ。二人が仲良しだと嬉しくってさあ」
(だいたい、なんで俺の方が嫁なんだよ)
ぷうっと頬を膨らませるリアン。
いつもと違う子供っぽい表情を見せるリアンを、皆が微笑ましそうに見つめる。
「あんまり見ないで。俺のなんだから」
ヤキモチを焼いたアイザックがリアンを後ろから抱き締めると、女性達のあいだから「キャーッ」と黄色い声が上がった。
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