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突然の訪問者
ある日の夕方、リアンが食事の支度をしていると玄関のベルが鳴った。
「誰だろう、こんな時間に」
ドアを開けると、貴族然としたどこかの令嬢が、お付きの侍女を連れて立っていた。
(なんで貴族がこんなところに?)
リアンは用心深く尋ねた。
「なにかご用ですか?」
「わたくし、アイザック様にお会いしたくて参りましたの」
「アイザックに?」
「ええ。以前、危ないところをアイザック様に助けていただいたのですが、すぐに引き離されてしまって、お礼も言えなかったのです」
令嬢の後ろに目をやると、派手な馬車が路上で待機していた。
(うわ、悪目立ちしてるなあ)
リアンは言葉を選びながら、令嬢に進言した。
「……事情はわかりました。ですが、この辺りは平民の住む場所です。あなたのようなご令嬢がいらっしゃるところではありません。騒ぎが起きる前に、どうかお引き取りください」
「では、せめてアイザック様が戻られるまで、中で待たせていただけませんか? お話したいこともありますの」
「……申し訳ありません。事件関係者との個人的な接触は騎士団で禁止されていますので」
「ひどい! どうしてそんな意地悪をおっしゃるの?」
「は?」
「あなた……リアンさんとおっしゃったかしら。もう第二騎士団を退団されたのでしょう? それくらいは調べていますのよ。ただの同居人のくせに邪魔しないでいただきたいですわ」
「……めんどくさ」
「なんですって!?」
「コホン。申し訳ありません。思ったことがつい口に出てしまいました」
「まあ、なんて態度なの!? 失礼なかたね!」
「すみませんねぇ、育ちが悪いもんで。まあ、あいつも一緒のところで育ったんですけどね。俺たち、兄弟よりもふかーい仲なんですよ」
リアンがニヤリと笑う。
「なっ、それどういう意味ですの? わかりましたわ。あなた、わたくしのことを揶揄ってらっしゃるのね!」
「まさか、そんな! 下賤の身で貴族のご令嬢を揶揄うなんて、とんでもございません」
「わざとらしい言い方はおやめなさい!」
そのときアイザックは――
目の前で繰り広げられているキャットファイト(?)に目を丸くしていた。
(家の前に馬車が止まってたので肝を冷やしたが、これはいったい……)
「アイザック様!」
リアンと言い争っていた女が振り向き、自分の名まえを呼んだ。
誰だ、この女……。
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