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リアンは、たった一日でへとへとになった。
「思ったより大変だったな。でも、やりがいがありそうだ。アイザックもそう思うだろ?」
疲れた顔をしていても、リアンの目は輝いている。
アイザックはそんなリアンに目を細めてうなずいた。
***
第二騎士団の団長マックスは、大柄なアイザックよりさらに頭ひとつ分大きい、堂々とした体躯の持ち主だ。
この国では珍しい燃えるような赤髪で、戦場では〈赤獅子〉と呼ばれ、恐れられていた。
余裕で団員たちの剣を捌きながら、マックスは一人一人に的確なアドバイスを送る。
「アイザック、力だけに頼るな。もっと足を使え」
「リアンは剣捌きは上手いが、力がまだ弱いな。腕だけじゃなく、身体全体を使って振ってみろ」
「団長! 次、お願いします!」
「ライオネルか。いいぞ、かかってこい!」
マックス団長は、圧倒的な強さと気さくな性格で団員たちに慕われている。
訓練が終わると、アイザックたちにも気軽に声をかけてきた。
「そういやあ、おまえらモテモテだってな」
返事に窮する二人を見て、「ハイとは言いづらいよなあ」とライオネルが苦笑する。
「騎士団員と結婚したいという女性は多いですからね。露骨にアプローチされてますよ。まあ、アイザックは無愛想なもんで、リアンの方が男女問わずモテてますけどね」
「ほお。男女問わずか」
マックス団長がニヤリと笑うと、アイザックが不快そうに眉根を寄せた。
(リアンに付きまとうやつらを追い払うのに、どれだけ苦労してると思ってるんだ)
この国では同性間の結婚も認められているので、同性同士のカップルも多い。街を巡回するようになってから、リアンは毎日のように男からもアプローチを受けていた。
「どう対処していいかわからなくて困ってます」
と、リアンは正直に話した。
「はっはっは。いいじゃねえか。人に好かれるのは悪いことじゃない。だが、問題を起こしそうなやつがいたら言え。俺の方からも釘を刺してやる」
「大丈夫ですよ、団長。番犬が睨みをきかせてるんで」
ライオネルがチラリとアイザックを見ると、憮然とした表情を浮かべている。
「なるほど。強面の番犬がいて良かったなあ、リアン」
「騎士団に犬はいませんよ? なあ、アイザック」
「…………」
周りにいた団員たちは必死に笑いをこらえていた。
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