注:流血シーンあり

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注:流血シーンあり

 激しく剣を打ち合う音が山中に響く。  アイザックとリアンにとって、命を懸けた初めての戦闘だ。  むせかえるような血の匂い。  敵か味方かもわからない叫び声。  アイザックもリアンも、目の前にいる敵をがむしゃらに倒していく。  リアンが数人の敵を倒したとき、盗賊がアイザックに斬りかかるのが見えた。 「アイザック、後ろ!」  リアンの声にアイザックが振り向き、盗賊の刀を剣で受け止めた。  ホッと息を吐くリアン。  その一瞬の隙を突き――  後ろから近づいてきた盗賊が、リアンの背中に大きな刀を振り下ろした。 「ぐっ……」  衝撃でのけぞるリアン。 「はは、やったぞ! やっ」  盗賊の雄叫びが止まった。  リアンが振り向きざま、盗賊の腹部を剣で刺したのだ。  急所を刺された盗賊が口から血を流し、前のめりに倒れた。 「はっ、ざまあみろ……」  リアンの身体がぐらりと揺れる。  アイザックの目に、ゆっくりと倒れていくリアンの姿が映った。 「あ、あぁあああ!」  半狂乱で駆け寄るアイザック。   「リアン、リアン!」 「アイ、ザック……俺、死ぬの、かな……」  傷口から流れ出る血で、地面が赤く染まっていく。 「馬鹿言うな! 絶対、死なせるもんか! リアン、リアン……」 (泣くなよ……いつまでも泣き虫なんだから……)  だんだん小さくなるアイザックの声を聞きながら、リアンは意識を失った。  ***  エルドラド王国の国民は皆、少量の魔力を持っている。魔石に魔力を注ぎ、燃料代わりに使っているので、水、火、灯りなど、生活で困ることはない。  だが治癒魔法を使える者はごくわずかで、リアンが王室の治療院に運びこまれたとき、治癒魔法士は不在だった。治癒魔法はすぐに使わなければ意味がない。  医者はできる限り手を尽くしたが、リアンの負った傷は深かった。  一週間後、やっとリアンの意識が戻った。 「リアン! ああ、良かった……」  片時も離れずに看病していたアイザックの目から涙がこぼれた。 「アイザック……ここ、どこ?」 「王室の治療院だ」 「そっか……俺、斬られたんだっけ。討伐はどうなった!?」 「大丈夫だ。一人残らず制圧した」 「良かった……のど、乾いた」 「水があるぞ。起きられるか?」  上半身を起こそうとしたリアンが顔をしかめた。 「うっ……」 「無理するな。俺が飲ませてやるから――我慢しろよ」  アイザックは水さしの水を口に含むと、リアンの顔を抑え、口に直接流し込んだ。  ごくごくとリアンの喉が鳴る。 「はー、生き返ったあ」 「怒らないのか?」 「なんでだよ。ありがとな、飲ませてくれて」 「ああ……」 「もう少し寝るから、おまえも帰れ」 「わかった。騎士団の方には俺から報告しておく。みんな心配してるから。……じゃあ、また明日」 「おお、またな」  アイザックの姿が見えなくなると、リアンは赤くなった頬を手で押さえた。 「なに考えてるんだ、あいつ。いくら兄弟同然でも口移しで飲ませるなんて。確かに、子どもの頃はキスとか平気でしてたけど……」  アイザックの唇の感触を思い出したリアンは、頭から布団をかぶり「うう」と唸った。
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