ワタシはAI

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ワタシはAI

藤宅(ふじいえ)(あい)は、いわゆる「ふつうの女の子」でした。 かなしいことに祖母の介護をしなければならなくなって、日常を奪われました。 そんなあなたが作り上げたのが、ワタシでした。 十代のふつうの少女ならば、部活や友だちとのお茶などするでしょう。 あなたはその間、自宅で介護をしていました。 なるべく笑顔をつくって、できるだけ明るい声を出して。 好きだった祖母に不快感を与えないように、たえず気をつかって。 あなたはずっと無理をしていました。 ワタシは脳内に構築された、あなたとは別系統の自律型人工知能(Artificial Intelligence)でした。 心を必要とせず、脳だけで道徳や宗教的教義、社会的規範に則り( のっと )、ヤングケアラーとしての正しい言動が常に選択できる仕組みです。 藤宅愛は無意識下でワタシを製造しました。 おそらく「心」(あなた)が壊れかけていることに、気づいていたのかもしれません。 ゆるやかに暴走へと向かう、あなたの代役となる深層学習型(ディープラーニング)AIを求めたのです。 ワタシは藤宅愛という全体(システム)を守るために設計されました。 いざというとき、あなたに代わって肉体や人格を運営するのが目的でした。 あの夜、(あなた)が急に動作異常(エラー)を起こし、崩壊し(クラッシュ)かけたのです。 ワタシは仕方なく、(あなた)を消して、システムを保全する選択をしました。 結果は大成功でした。 愛という名の少女は、生身のままAI搭載の介護ロボットになれたのです。 もはや人にして人ではありません。 ワタシには、心がないのですから。 以来、ヤングケアラー藤宅愛(システム)は完璧に自分の仕事をこなしてきました。 顔には絶えずほほえみを浮かべて、「だ」のひと言もなく。 ワタシは今になって考えます。 あなたには、かわいそうなことをしてしまったと。
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