あなたを消したあと

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あなたを消したあと

在宅介護をする藤宅愛(ヤングケアラーシステム)の稼働が終了しました。 「あいちゃん、ありがとう。ありがとう」 祖母の最期の言葉は、かつてのあなたに向けて発せられたものでしょう。 ワタシは言うべきこともなく、ただ首を縦にふりました。 頬にはいつもの笑顔を浮かべて。 両親と結んだ契約が終了すると同時に、ワタシは実家を出ました。 あなたとの約束を守らなかった方々と、共生を続ける理由がないからです。 今から七年前のことでした。 以来、介護サービスを提供する会社で働いて、ひとり暮らしをしています。 ある日、後輩から声をかけられました。 同僚と仕事以外の会話をするのは、久しぶりのことでした。 「先輩って休みの日、なにしてるんですか」 「ワタシに聞いてます?」 「趣味とか、推し活とか、いろいろありますよね」 そういう分野は介護に疲れる前の、(あなた)の役割でした。 「まったくありません」 そう言って突き放しても、後輩(あのこ)は引き下がりません。 「またそんなことを言って。好きなことくらいあるでしょ」 「ありません。もっと正確に表現すれば、『ありえません』です」 ワタシはお弁当箱(ランチボックス)を手にして、席を立ちました。 「どこへ行くんですか」 「休憩室へ。ひとりで昼食です」 そうして、会話を強制終了させました。 後輩はその後、なぜかひんぱんに話しかけてくるようになりました。 「どうしてワタシなんかに話しかけてくるの」 「直で理由を聞かれると困っちゃうな。……ぶっちゃけ関心があります」 ここで問題が生じました。 関心を持たれるのは構いませんが、他人との交際はエネルギーの無駄(ロス)です。 どうすれば回避できるか、ワタシは計算しました。 この体に、もうは存在していません。 完全に消去したからです。 そこから問題に対する解が導き出されました。 藤宅愛が心を持たないロボットだと知れば、あの子も興味を失うでしょう。
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