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「全く、あなたがいない間の暮らしは、ひどい夢みたいだったわ。あなたの葬式の喪主も大変だったし。私は乳がんの手術もしたの。抗がん剤も打って髪の毛も抜けたわ。今はウィッグだけど、笑わないでね」
「笑うものか、高子……」
桜吹雪の中で、ふいに高子は和正の姿の違和感に気が付いた。彼の服はなぜかぼろぼろに見える。まるで交通事故に合ったような。それに彼の額も腕も、血に濡れているのではないか。
気づけばしだいに、和正の姿がうっすらと薄くなってゆく。
「あなた! 待って! あなた!」
高子は必死に叫び、手を伸ばし前に進もうとする。しかし見えない空気の壁があるように、なぜか和正に近づけない。
「あなた!」
悲鳴のような自分の声で、高子は目が覚めた。
上半身を起こしてあたりを見渡すが、自分以外に誰もいない。寝室のベッドの上でひとりきりだった。
ベッドサイドに目をやれば、写真立ての中の写真は、高子と和正が寄り添い微笑んでいる。その傍に置いてあるのは、医者から処方された睡眠薬の錠剤と、水の入ったペットボトルだ。
「ううっ……」
高子は震える手で写真立てを握りしめると、嗚咽を漏らした。
夢ならばもっと会いたかった。彼の声を聞きたい。もう一回でいいから……。
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