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運命
運命、というものが存在するのであれば、私と先輩は、結ばれない運命だ。分かりきっていた。
先輩の隣にはいつだって、キレイにピンクブラウンで髪を染めたあの人がいる。それでも、私は後輩として先輩の隣に居れるだけで十分だと思っていたし、片想いが一番幸せな恋だど思っていた。
だってそうだ、付き合えば、あれが気に食わない、これが許せないと、欲求は果てなく募っていき、最後には嫌いになって終わるんだから。
片想いなら恋心はキレイなまま、いつまでも好きでい続けられる。
今日も少し気だるげに、机に伏せる先輩の横をキープする。今日は彼女は来ていない、みたいだ。隣に座った私に気づいたように先輩が顔を上げて、いつもの人懐っこい笑顔を見せる。
「おはよう、ミウ」
「おはようございます、先輩」
にこりと微笑み返せば、先輩は満足したように「ん」と呟いて、また机に突っ伏す。昨日も遅くまで飲んでいたのだろうか。
私たちの服飾サークルとは、名ばかりのサークルメンバーと、趣味程度に服を作るメンバーで構成されている。ほぼほぼは名ばかりのメンバーで、毎晩のようにお酒を浴びるように飲みに出ては楽しんでいた。
私も歓迎会と、飲み会に何度かは参加したことがある。その中で先輩を好きになったんだけど。
元々入った理由は、今では思い出せないけど、入ってよかったなぁと思う。
スケッチブックを開いて、次の服の案を練る。夏に向けたワンピースがいい。爽やかなブルーの生地を使って、ウエストは絞って……
寝始めた先輩の横で鉛筆を、シャッシャッと鳴らしながら描きあげていく。入った当初は、雑巾とかぐらいしか縫えなかった。でも今では、服まで作れるようになったのだから、成長していると思う。
集中してスケッチブックに線を走らせていれば、手元に視線を感じた。一旦、手を止めれば残念そうな声。
「えー、やめちゃうの」
「先輩は、お昼寝しに来たんですか」
「んー、昨日飲み過ぎたし、あいつも講義中で暇だから遊びに来たんだけど。ミウ以外誰も来ねーの」
鉛筆とスケッチブックを机に置いて、先輩と向き合う。先輩のとろんっとした瞳に、吸い込まれそうになって無意識に足を踏ん張った。
先輩は、彼女がいるくせに。誰でも彼でも、惚れさせようとする。自分が一番じゃなきゃ、ダメな人なんだと思う。
それでも、確かに先輩はいろんな人の一番だ。
顔は整ってるし、アッシュに染められた髪の毛はキレイだし。優しいし、いつだって、何かと気にかけてくれるのは先輩だ。
「ミウは、髪染めねーの?」
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