さようなら、私の全てだった人

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さようなら、私の全てだった人

 後戻りができないようにサークルグループを開いて、メッセージを打ち込む。『お世話になりました。抜けます』簡単な文章を打ち込んで送れば、先輩がいち早く返信をくれた。 『なんかあった?』  言い訳を考えていなかった。引き止められるとも思っていなかった。引き止められてるわけではないけど。それに近しい意味に、私には見えた。  取り繕った文章を考えて、メッセージを打ち込む。打ち込む指はプルプルと震えて、抵抗する。 『新しく入りたいサークルを見つけて……』  辞める理由になっていないはずなのに、先輩はそれ以上返信はくれなかった。それだけの関係と言われてるようで、胸の奥がずきんずきんと痛む。  スマホ上では他のサークルメンバーが他人事のような、感情の乗っていない『寂しくなるね』という言葉を書き連ねていた。  扉を開けばレジの中から、ちらりと店員がこちらかをうかがう。 「決めたの」  店員さんは私の顔を見た途端に、レジ裏をゴソゴソと漁ったかと思えばあのケースを取り出した。昨日と違うのは、ケースの上に雫型の石が何個も並べられている。 「これは?」 「あんたから買い取った恋心」  透き通った青色、紫と青のグラデーション、赤に混じった紫。全てが物悲しい色に見えて、今の胸の痛みもこんな色なんだろうか、と他人事のように思った。 「今のあんたなら、買い取らなくても大丈夫かも知んないけどね」  店員さんの不器用な言葉に、ふふっと笑う。私でも、そう思った。それでもこれは、儀式だ。先輩とのお別れの。  今までの恋もただ、辛いままにこのお店に来たのかもしれない。私は先輩に彼女ができても、まだどこかで期待していたのだ。  私が悩んだり、泣いていたら、きっと先輩は私の方を見てくれる、と。昨日のあれ以来返信が来なかったのは、明確なお別れだった。  私はただの同じサークルの後輩でしかない、と物語っていた。  
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