こっちを見てよ許嫁さん

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いつから「おはよう」の一言すらうまく言えなくなってしまったのだろうか。 情けなくて「はぁー」とため息がでてしまう。 項垂れながらも教室に向かって歩く彼の後ろ姿をチラリと盗み見てみる。 話せないくせに気づけば日に何度も彼のことを目で追っている。 いや、話せないからこそ、見るだけで満足しようとしているのかもしれない。 (見るだけなら誰からも文句は言われないよね。弘樹は今日もかっこいいな) 許嫁である弘樹は身長も高くて少し茶色がかった髪がよく似合う。頭もよくて中高一貫のエスカレーター式のこの学校に、高校から入ってきた秀才だ。無口であまり笑わないがそこが逆に良いのだとクラスの女子が言っていたのを聞いたことがある。 それに対して由宇は小心者で消極的。背も高くなくて小柄で中性的な顔立ちだ。可愛いなんて言われることもあるが、男子である由宇はその言葉を聞く度になんとも複雑な気持ちになる。女子より綺麗な顔をしていて控えめな性格の由宇は男子から人気があるが、鈍感な本人はまったく気づいていない。 許嫁の弘樹はそのスペックの高さからかなりモテている。実際由宇は彼が告白されているところを見てしまったことがある。そのときは「許嫁がいるから」とあっさり断っていたが慣れた様子の彼を見て、今回が初めてではないんだろうなぁと感じた。 まさしくその通りで、弘樹に失恋した人たちや彼のファンから ’’釣り合っていない’’ ’’相応しくない’’ などと陰で言われるようになった。 学年が上がるにつれてその声は大きくなり、今では由宇に対してはっきり言われたりすることもある。
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