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何気なく見ていたスマホでエロサイトの広告が出てきた。エッチな店に行ってみるというのはどうだろうか。恋愛経験ゼロの僕は一人でしたことはあるけれど、キスもその先もしたことがない。無理やり結婚させられようとしている今、この先好きな人とできるわけでもないのだから、さっさと経験してしまえばいいんだ。調べてみると本番ができる店がある事が分かった。Ω専用、初めてでも安心という誘い文句に惹かれてやってきた歓楽街。きらびやかな世界に場違い感が半端ない。でも、行くと決めたのだから尻込みしている場合ではない。よし……と意気込んだ瞬間思いっきり人とぶつかった。
「すっ……すみません……」
「こちらこそすみません」
顔を上げると長身でやたらと色気を漂わせた男の人が立っていた。前髪から覗く涼し気な目元が目を引く。
「この辺輩が多いから気をつけたほうがいいよ」
そう言って優しく微笑まれた。ホストなのだろうか?いや、モデルかもしれない。スーツ姿の彼はものすごくモテそうな雰囲気を持っている。
「ありがとうございます」
「じゃあ」
頭を下げてその人とすれ違った。またスマホを覗き込んで目的の場所があるビルを探す。この辺りのはずなのに。
「ねぇ」
肩を叩かれて振り返ると先程の男の人が立っていた。
「何か?」
「どこに行きたいの?」
「え?」
「キョロキョロして、またぶつかりそうになってたから気になって」
「あぁ、そうでしたか。ご親切にどうも」
「で、どこへ?」
「あのここなんですけど」
彼に地図アプリを見せてみる。画面を見た彼がここ?と言いたそうな顔をした。
「ここへ行くの?」
「えぇ、まぁ」
「ここってさ」
「はい」
彼が顔を近づけて「風俗店しか入ってないけど」と小声で囁いた。その瞬間顔から火が出そうになった。まさか、そんな店ばかりのビルだと思わなかったのだ。
「そういうとこ行くんだ。性欲なさそうなのに。意外」
「あの、まぁ……その……」
「ちなみにどの店?」
「は?どうしてそんな事?」
「興味本位」
「興味本位ですか?」
「うん」
何故か楽しそうな顔をされてどうすればいいのか分からない。とりあえず店名を答えたらいいのか?
「あの……PASHってとこなんですけど」
「あぁ、そこか。まさか答えると思わなかった」
「え?」
「気をつけたほうがいいよ。分かる人には君がΩだと分かってしまうから」
「そ……そうですね。本当だ」
「心配になっちゃうね。君」
「いや、大丈夫です。そんな心配して頂くようなこと」
「純粋そうだし」
「いやいや……」
「俺にしない?」
「は?」
「ちょうど相手探してたんだよね」
「仰ってる意味がよく……」
また彼の顔が近づいて、耳元でこう囁いた。
「今から俺とセックスしない?」
顔を離した彼はまたにっこり微笑んだ。
「セセセ……!?」
「結構評判いいよ、俺」
「ええっと、誰に?」
「ネコちゃんとかΩの子に」
何度か瞬きを繰り返して、彼の目を見た。冗談を言っているようには思えない。
「お金は……?」
「お金?そんなのいらないけど」
「無料!?」
「ホテル代も出すし」
「そ……それは」
ありがたい。自由に使えるお金がそんなにあるわけではない僕は「お願いします!!」と言っていた。もしかしたらとんでもない事をしようとしているのかもしれない。でも、まあいいか。なんの面白みもない人生の中で、今日は印象的な日になりそうだ。
「行こうか」
「はい」
彼の隣に並んで歩き出した。すれ違う人達が彼の方を見て色めき立つ。「今の人かっこよかったね」と話す声も聞こえた。やはり彼は格好いいようだ。しばらく歩くとホテル街に到着し、きれいな建物を指して「ここでいい?」と聞かれた。特にこだわりなんてものはないから頷いた。
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