第9話 学園祭

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「どうしたの? 大丈夫?」  ナマハゲが心配そうに蒼汰の顔を覗き込む。  ――どうしたもなにも、すべてお前のせいじゃないか。お前さえいなければ、こんな苦労をすることもなかった。もう二度と、ナマハゲには会いたくない……。  たまらずに蒼汰が駆け出そうとすると、それまでの牛のような足取りとは打って変わって、ナマハゲが俊敏な動きで蒼汰の前に立ちはだかった。 「ま、待って……、待ちなさいっ」 「な、何を……」  怖気(おじけ)付く蒼汰のことを、ナマハゲは鬼のような形相で長いこと見つめていたと思うと、急に顔をくしゃくしゃにして頭を下げた。 「ごめんなさいっ……」  は? なんだって?   ごめんなさい? どうしてナマハゲが僕に謝ってくるんだ。  狐につままれたカピバラになっている蒼汰に向かって、ナマハゲが力なく顔を上げる。 「ずっと……気にかかっていたの、蒼汰ちゃんのこと。ピアノ教室を急に辞めちゃって、その後もぜんぜん見かけなくなっちゃって」 「気にかかって……? どうして僕なんか……」  悪いのは練習をちゃんとしなかった自分の方だ。ナマハゲは僕のことを憎んでいたんじゃないのか……? 「だって、悲しいでしょ。自分の教えていた子が、もしピアノを嫌いになっちゃったら……」 「それは……、子供だったら仕方がないでしょう。練習、練習って、あの頃の僕はそんなにピアノが好きじゃなかったし」  ナマハゲが首をふった。 「そんなことない。蒼汰ちゃん、最初は楽しそうに笑ってたから。私が悪いの。余裕がなくて、うまく教えてあげられなかったから……」  ひょっとしてこのナマハゲは、自戒していたりするのだろうか……。でも、今さらそんなことを言われたって、記憶は、過去は上書きできないんだ。  この際だ。こっちの思っていることをぶちまけてやれ。  腹がたった蒼汰は思い切ってナマハゲと目を合わせた。 「辞めてませんよ、ピアノ……。ちゃんと続けてます」 「え? そうなの?」  蒼汰はこれ見よがしに大きなため息を付いた。 「ええ。それどころか、今週末に発表会があるんです」 「発表会? そうなの、がんばってるのね……」  そう言って目を細めるナマハゲを見て、蒼汰は戸惑った。  いや、そんなリアクションは求めてない。僕はナマハゲを喜ばせたいんじゃない。僕が今まで、どれだけ苦労してきたかをわからせたいだけなんだ。
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