14人が本棚に入れています
本棚に追加
……ある日のこと。
ピアノ研究会のイケメンの先輩は、自分のスマホがカバンのなかにないことに気がついた。
部室にでも置き忘れたのかもしれない。
そう思って急いで部室に戻ってみると、部室の真ん中に今まで見たこともないような立派なグランドピアノが置かれていた。
そんなもの、ついさっきまで置かれていなかったのにおかしいぞ。
驚いたイケメン先輩はあたりを伺ったが、部室にはこれまた誰もいない。自分が帰るときはまだ部員が何人かいたはずなのだが――。
「……そのピアノが消えたってこと?」
蒼汰が訊くと、早坂さんがチッチと人差し指を振った。
「あのね、上川君。人の話は黙って聞くの。これからいいところなんだから」
「はあ、ごめん」
「それでね、イケメン先輩が恐る恐るピアノに近づいていったわけよ。そしたらね、ガバアァァァアアァァ……ッッッ……って」
と言うなり、早坂さんが猫のように爪を立てて蒼汰に飛びついてきた。
「わあっ……。な、なんだよっ」
グラスに入ったコーラをこぼしそうになって慌る蒼汰の胸元で、早坂さんがほんのりと赤らめた顔を上げた。
「びっくりした?」
「……びっくりじゃないよ。危ないじゃん」
「イケメン先輩の驚きを共有させてあげたんだよ」
そう言って早坂さんは蒼汰から身を離すと、済まし顔を作って話に戻った。
「――ピアノの蓋が開いたの。そしたらね……」
……ええと、なんの話だったっけ?
最初のコメントを投稿しよう!