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第三章・君が遠くて 3ー②
頑固な将人に無理強いは逆効果だと分かっているからか、千代田はそれ以上、アプローチをして来なかった。
それでもそのスキンシップの激しさは相変わらずで、バイトの時間を終えて2人で店を出る時も、いつものように肩を組んで来ようとする。
将人にとって、千代田からの接触は不快な程に過剰に思えたので、ハッキリ拒絶した。
「ちょっと、千代田さん!これ、やめてくれませんかね?」
「僕は他のバイトの子にも、肩くらい組むよ?男同士なんだから、気にするなよ」
「他の人には良いかもやけど、曲がりなりにも告白した相手やったら、その言い分は通用せんと思いますけど」
「肩組むのもダメだなんて、後藤君はホントお堅いなぁ」
「そりゃオレだって、観に行った阪神の試合で勝つような感動があれば、肩位、組みますけどね」
「お、後藤君、野球やってたからそんなに大きいの?俺はバスケ部だったんだけど」
「プロ野球観戦はライフワークですけど、ほぼ帰宅部です」
「ちょっと!帰宅部で俺と変わらない身長とか!もったいない!」
この人とは、友情で済めば良かったのに、と思う。
その後の食事も、焼き肉を奢って貰い、早々に家に帰らせて貰った。
千代田との会話は弾み、楽しく過ごせたし、食事の間も艶めいた話を匂わしては来なかった。
だが、好意を持たれていると分かっていて、それに応えられないのなら、こんな付き合いはするべきではない。
未来がないのに期待させるのは、真剣に好意を寄せてくれているだろう千代田に失礼だと思った。
バイトは辞めよう。
将人は食事を終える頃には、そう決意していた。
誰かを代わりにして、前の恋を忘れようとするのは、自分らしくないし、きっと先で後悔する。
千代田とは店の前で別れ、将人は最寄り駅で家までの切符を買い、改札に入ろうとすると、その腕を掴まれた。
「将人、ちょっとエエか」
「ナナ?……え?お前なんで……」
「話がある。お前と、ちゃんと話がしたい」
七海の真剣な眼差しに、将人は息苦しさを覚えた。
あれから七海とは、携帯で連絡するのも途絶えていた。
将人自身も何と言って良いのかも分からなかったし、七海も悩んでいたのだろう。
そう思えば、いつも何かあっても中途半端に、うやむやにしてしまっていた。
七海からは、プライベートに関しては昔から妙な一線を引かれていて、そこには立ち入れないような膜が張られている。
将人もまた、踏み込んではならないのだと思い込んで、親友ではありながら一歩引いた付き合いをしていた。
「将人、何であの男とおったんねん。あいつはセクハラ店長なんとちゃうんか」
「セクハラとかちゃうし、別に。……っていうか、お前、見てたんか?!どこから……」
「店出て来た時から、肩組んでたらやろ!肩抱きながら歩くんは、普通ちゃうやろ!どう考えだって、あいつ、お前に気あるやんか!」
「ああ!そうや!好きやて言われたわ!それがお前になんか迷惑かけたか?!オレが誰と付き合おうが勝手やろうが!」
道行く人々が、将人と七海を横目に見ながら去って行く。
だが、二人はもう場所を移すという考えすらも浮かばなかった。
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