4 大人

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4 大人

幸星は、棒になった足を引き摺るように動かしながら、水の入ったコップを手に取った。警察学校を卒業して3日目、今もなお疲れが取れていない。警察学校は、覚悟をぶち破るほど厳しく、生活も制限されてもはや奴隷になっている気分にすらなった。努力と克己心を嫌なほど胸に刻んで、やっとのことで卒業証書を手にすることができた。 *** 3ヶ月ほど時を経て、彼は某交差点の整理をしていた。炎天下での仕事は苦しいが、みんなが自分を頼りにしてくれるようで大変やりがいがある。まだまだ下っ端だが、警察のバッジを付けてるだけで誇らしい。 すると、一人の女性が交差点を横断した。 「あ、どうも。いつもお世話になってます」 「そう言ってもらえて嬉しいです、まあ交通整理をしているだけですけどね。」 彼女は、整った唇を吊り上げ上品に微笑んだ。彼女は仕事でこの交差点をよく通る。可憐で守りたくなる容姿と声、明るく優しい性格を兼ね備えており、幸星は密かに思いを寄せていた。 「あ、明日って土曜日ですよね。良ければランチでも…」 ふふっと笑みを浮かべて、快くOKしてくれた 「いいよ、いつにします?」 彼女とはそれなりに仲がよかった。幸星は心の中でガッツポーズをする。 交通整理をしているうちに、怒涛のように時間が流れ、気づけば7時を過ぎていた。家に戻り、シャワーを浴びる。体を包むような温かさが、とても心地よい。シャワーを終えて、冷蔵庫へ向かった。贅沢して、高いシャンパンを買っておいたのだ。机に、ご飯とお酒を並べ、箸を握った。ふと、外に目をやる。立ち並ぶビルと朧げに光る街灯が、晩酌と似合いすぎる。幸星は、なんだか大人っぽく、洒落た晩酌を思う存分に堪能した。 「明日はデートか… 3時間前には起きないとな」 *** 「勝。いつも通り素晴らしいよ」 さも当然だというように、勝は成績トップに君臨していた。しかし彼は、気怠そうに席を立ち、ぞんざいな態度でテスト用紙を奪い取った。彼はプレッシャーに追われ続け、ストレスを感じていた。歓声なんて浴びなくていいし、妬んで難癖をつけないでほしい。高校で燃え尽きた勝は、テストの点数が突然下落してしまった。 そしてある時。 「気持ちよくなりたいだろ?一回だけでいいから、これ飲んでみろ」 人通りの少ない狭い路地を歩いていた時、突然柄の悪い不良に声をかけられた。 「いや、遠慮しときます」 「おいおい、じゃあ50円でどうだ」 「50円…」 「一回だけでいいから。気持ちよくなれるぞ」 一回だけなら… 兄ちゃん、兄ちゃん、やめてよ。 幸星…? お兄ちゃん、無理しなくていい。辛いことがあったら僕に言ってよ。小学生の頃誓い合ったじゃないか。ほら、僕の手を握って 幸星、ごめんよ 手が触れ合う寸前で、勝は闇に吸い込まれてまった。唸り声がして振り向くと、後ろにはどす黒い怪物が立っている。 誰か! 勝は、必死になってがむしゃらに逃げた。 幸星、お父さん、お母さん… 勝の中で、白い粉が溶けていく。
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