えあmt

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 夜なのに、月が明るい。しかしそれは何年前かから同じ事。ルクスと云う単位は知らなかったが、僕は電気スタンドのスイッチを押した。  スマホの電源を点けると、デジタル時計の表示の下に灰桃の斑点が現れた。太陽をじっ、と見た後、目を瞑ると瞼の裏に映るアレらの様に、画面上の斑点達も踊っていた。  僕は眠い目を瞬かせながらそれらを見ていたので、画面は直ぐに占領された。砂塵、蜃気楼の様に震えながら灰桃しか映らなくなった。  その内、斑点達は体を持つようになり、小指の爪の大きさ程まで膨らんだ。幸い、そこから大きくなる様子は見られないので、僕はかなり安堵した。  シミュクラ現象が悪さをし、彼らに顔が見えた。レーズンの様に真っ黒な三つの点が生え始めたのだ。  「やめてくれ!僕は集合体恐怖症なんだ!話があるなら、一人ずつ訪ねてくれないか?もし、君達が言語を会得しているなら、君達はどんな感触がするのかも教えてくれ。飽くまで、僕の知的好奇心からの質問だが、君達への恐怖と打ち解けるためには、なかなか有効な一手だと思うんだ!」  「セリフが長いぜ」  彼らの内の一人が声を発した。彼らは彼らなりの民主主義により、一番大きな個体を代表とし、喋らせた。しかし、画面の上では相変わらず無数の斑点が蠢いていた。恐怖と打ち解けるにはまだ時間が掛かるようだ。  「聞いてんのか?おい鈍間、お前がうだうだと喋るせいで文字数が444になった。不吉すぎるんだよ!しかも今は朝の四時ときた!これで短針が9の手前にあったなら、お前の細胞を右から順に破壊していたぜ!くそっ、くそっ!」  僕はあまりにも気になったので、斑点の代表を掴んだ。スライムの様な感触、と予想していたが、実際には何も感じなかった。空気より軽い物を握ったのだろう。  掴まれた個体は肉になって、消えた。代わりに一つの斑点が大きく膨らんだ。僕はその事象が起きる前に、少年時代、ナメクジの目を左右交互に押して遊んでいた事を思い出していたので、丁度良かった。  童心に帰るきっかけは突然訪れるのだな、と今年二十歳になって初めて気付けた。  「待ってくれよぉ。僕たちは君がやらなくちゃぁいけない事を言いにきたんだよぉ」  斑点の新代表は弱腰だった。  「君は、"今日中に英治さんに連絡をする"、って言ったんだよぉ。でもその"今日"ってやつは四時間前を以て過去になっちゃったんだよぉ」  「僕はそれを思い出して、今から、一日遅れだが実行しようとしてたんじゃないか!だからスマホを起動した。そしたら君達が僕の作業を邪魔を始めたんじゃぁないか!」  夜明けは近かった。蚊が隣の家から入って来るのが分かった。  斑点達は啜り泣きのリズムで保護フィルムの中に溶けていった。  斑点を握り潰した反動で、画面が同心円状に割れていたので、フィルム貫通の攻撃を会得してしまったらしい。  改めてSNSの相互フォロー欄、その一番先頭のアイコン押し、彼に口語体でメッセージを送った。  "8月下旬頃、気になる創作家何人かに声を掛け、オフ会を開こうと思っています。企画者として、僕が幹事を務めようと思っています。もし椎名さんの都合が合いそうなら、助言をもらえると嬉しいです"
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