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2. 取材の条件
ノックをして会議室のドアを開けると、長テーブルを挟んでオフィス用の椅子が対面で4脚ずつ置かれた、コンパクトな広さの会議室だった。
新堂さんはその中の一つの椅子の近くにしゃがみ込み、横から観察するように見ている。
「手当て終わったんだな」
「はい。すみません、お待たせしてしまいました…」
ひとしきり観察し終わったのか、新堂さんの目線が私に移った。
膝を軽く払いながら立ち上がると、こちらに近づいて差し出された名刺を受け取る。
――デザイン事務所『Alpha』代表 新堂梓真。
信じられない。
この人が本当に、あの新堂さんなんだ。
彼はこれまで、国内メディアへは一切顔出しをしていない。
8年前に21歳で初受賞した際に受けた海外のインタビュー記事でも、写真はすべて後ろ姿や影になった横顔の写真だった。
その記事で『視力があまりよくないから眼鏡が手放せない』という内容を読んで、私が唯一容姿について知っているのは、眼鏡をかけていることだけだった。
「……改めまして、文董社の櫻井泉です」
「俺はもう持ってるからいい」
私も慌てて名刺を出そうとしたけれど、新堂さんはジャケットのポケットからさっき拾っていたそれを取り出して見せてから、先ほどまで観察していた椅子に座る。
「それより9時35分。予定より5分過ぎてるけど」
「あっ、」
(そうだ、貴重な時間!)
この打ち合わせは30分しかないのだ。
私はバッグから用意していた資料を取り出して新堂さんの前に置いてから、向かいの席に座った。
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