2. 取材の条件

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「そもそもの質問をするけど、何で俺なの?」 「……え?」 思ってもいなかった質問に、私は息をのむ。 「デザイナーなら他にもいる。俺みたいに顔出しも取材もNGな人間より、他にもっと適任はいるだろ?」 まっすぐに見てくる新堂さんの目は、こちらを探るとか駆け引きとかそういったものは感じられない。ただ、こちらを射抜くように鋭かった。 「目的は何?取材を取って編集者として名を上げたいとか?」 「ち、違います!」 「じゃあ何で?」 矢継ぎ早に質問されて、私は戸惑う。 私はもともとインテリアのカタログやデザイン誌を見るのが好きだった。 実家が代々続く古い日本家屋だったせいもあって、思春期の頃にそういった『おしゃれなもの』への漠然とした憧れがあったからかもしれない。 高校生になり進路を決める頃になって、その道に進むことも考えたけれど、私には頭に思いついたものをアウトプットする手段がなかった。簡単に言うと、絵のセンスが壊滅的になかったのだ。 描くことは好きだけど下手の横好き。 専門学校へ進むにしても、センスのある人たちが集まる世界で自分がやっていける未来が、どうしても描けなかった。 自分の高校卒業後に進む進路に悩んでいるときに出会ったのが、当時21歳で新堂が受賞した作品だった。 スチール製のチェアの中に日本の伝統工芸をミックスした、既存にとらわれない美しいデザイン。 ネットで見たそのニュースに、私は釘付けになった。 でも大学の友達を含めて周囲では知っている人も少なくて、聞いても誰?とかどこがそんなにすごいの?といった反応ばかりで、私の受けた衝撃や感動は、そのときの私の言葉では伝わらなかった。 こうやって活躍している人を知ってもらいたい。 自分の言葉で、多くの人に伝えられるようになりたい。 それが、この業界に入って編集者を目指そうと思ったきっかけだった。
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