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「…本当に、この手紙に書いてある内容の通りなんだな」
そう言って、新堂さんは見覚えのある封筒を取り出した。
「それ、私が出した手紙…!」
これまで何度かアポイントの依頼をした中で、私が最後に出した手紙だ。
「『高校生のとき、初めて新堂さんの受賞作品を見た衝撃は今でもはっきりと覚えています。そのときから新堂さんは憧れの人です。自分の進路に悩んでいた私に…』」
「ちょっ、!?読み上げるのはなしです!だめです!」
私は思わず立ち上がって止めようとするけれど、難なくかわされてしまう。
「これ、取材オファーっていうよりほとんどファンレターだろ」
図星を指されて、かあっと顔に熱が集まるのが分かる。
(この人、絶対からかって楽しんでる…!)
新堂さんは便箋をひらひらとさせながら、意地の悪い笑顔を浮かべていた。
「っていうか今どき何で手紙なわけ?」
「それはメールだと収まりきらなくて…それならいっそ手紙の方が全部伝えられるかと思ったんです」
「なるほどな、確かに便箋5枚の量をメールで送られても怖えわ」
何度かオファーを断られた後だったから後悔せずに思いの丈を、とかなり気持ちを乗せて書いてしまった自覚はあった。
そんな手紙を目の前で本人に読み上げられるなんて、こんなの拷問だ。私は恨みがましく新堂さんを見つめる。
「返してください」
「やだ、俺宛に送ったんだから俺のものだろ」
「それはそうですけど」
新堂さんは手紙をテーブルの上に置くと、頬杖をついてこちらを見た。
「憧れと現実が違って幻滅した?」
「…え?」
途端に、先ほどまでのからかう雰囲気は鳴りを潜めて、私はどう答えていいのか分からず目線を彷徨わせる。
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