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「…そんなことはありません」
確かに、勝手に自分の中で持っていた『新堂梓真』という人物像とは違うかもしれない。
いろんなところから耳にする噂から、仕事にストイックだけれど気難しい、怖い人なんだろうと想像していたから。
実際はギリギリまで自分の正体を隠したり、こんなふうに人をからかって笑ったりするような人で。
でも、私の作った資料を最初から最後まできちんと目を通してくれたのも、みんなが先を急ぐ中転んだ私に足を止めて助けてくれたのも、新堂さんだ。
だからそれを幻滅というのは違うし、これくらいのことでは新堂さんが憧れの人だという気持ちは変わらない。
そう言うと新堂さんは少しだけ目を見開いて、それまで合っていた目線を逸らした。
「……とりあえず、無駄な熱量だけは伝わった」
無駄って。
もうちょっと言い方を考えてくれても。
表情を戻した新堂さんは私の不満を読み取ったのか、その表情からは余裕と自信に満ち溢れている、悔しいくらいに。
(でも、考えてみればそうだよね…)
新堂さんはすでに業界内では知られていて、デザイナーとしての地位は確立している。当然仕事も困っていないはずで、それどころか受けきれなくて1年待ちの案件もあるくらいだと聞いたこともあった。
そう考えると、自分が発した言葉すべてがただの独りよがりに過ぎないような気がして、自分の言葉の限界のようなものを感じる。
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