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「受けてもいい」
「……え?」
「取材、受けてもいいって言ってんの」
私は驚いてテーブルに落としていた目線を戻すと、思いがけない言葉に目を何度か瞬かせた。
「ほ、本当ですかっ!?」
思わず立ち上がりそうになった私に、新堂さんは「ただし条件がある」と言った。
「じょ、条件ですか?」
何だろう、取材料を上げろとかだろうか。
もしそうだとしたら、さすがに私の一存では決められない。
「うちの事務所で働け。そこでの働きぶりを見て取材を受けるか決める」
予想の斜め上をいく条件に、私は目を丸くした。
働く?私が?新堂さんの事務所で…??
「は、働くってそんな無理ですよ!だって仕事が、」
「別に朝から夜までってわけじゃない。1日のうち何時間か事務所に来てくれればいい」
「でもっ、」
「無理ならこの話は無かったことにする。それだけ」
そう言われると、私の立場は圧倒的に弱い。
この様子だと、この場でYESかNOかを決めなければならないみたいだ。
私は頭の中でいろんなことを天秤にかけて考えるけれど、正直私の中では答えは決まっていた。
「どうする、あと2分で約束の時間も終わるけど?」
「分かりました、やります」
「やります?」
「……働かせて、いただきます」
私の答えに新堂さんは満足そうに微笑む。
あぁ、言ってしまった。
主任にも編集長にも相談もしないで。後で絶対に怒られる。
新堂さんは私の葛藤を知ってか知らずか、飄々とジャケットのポケットからスマートフォンを取り出した。
「連絡先教えろ。今度うちの事務所に来てもらうから、日時と場所はこれで教える」
そうして私は新堂さんの連絡先を交換した。
自分のアドレス帳に『新堂梓真』と入ったのをまじまじと見つめていたので、新堂さんの次の言葉に反応するのが遅れた。
「ちょうど雑用係を探してたところだから助かる」
(へ?ざ、雑用…?)
不穏な単語が耳に入ったけれど、時すでに遅し。
スマートフォンから顔を上げると、至近距離に新堂さんの顔があった。
「じゃあこれからよろしく、櫻井さん?」
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