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なんで?と不思議そうにしている有働くんに、私が担当を変えられたことを知らないんだと分かってそのことを伝えると、すごく驚いた顔をしてからそっか、と呟く。
「あぁ、でも確か同じ大学の出身だもんな」
そのひとことに、今度は私が驚く番だった。
「……そうなの?」
「あれ、知らない?麻生主任は大谷工科大学の工学デザイン科卒だって聞いたよ。確か新堂さんは建築学科じゃなかった?」
「……知らなかった」
けれどその言葉で、私は前に新堂さんの事務所にいたときに、杳子さんから電話がかかってきたときのことを思い出した。
『会社から?』
『はい、杳子さんからでした』
『ようこ?』
『えっと、麻生さんっていう私の直属の上司です』
きっとあのときに、新堂さんは大学の同級生が私の上司だと気づいたんだ。
その二人が連れ立って歩いている。
あれは、事務所へ向かう方向だ。
麻生さんが担当になったのだから、事務所近くで一緒にいるのも当然のことで。
それなのに、私はその場を動けずに並んで歩く二人を目で追ってしまっていた。
どうしよう、ものすごく胸が痛い。
そのとき、ふと新堂さんの足が止まってこちらを向いて、視線が交錯する。
眼鏡の向こうの目が見開かれるのが、スローモーションのように見えた。
―――さくらい、
そう新堂さんの口が動いたように見えたのは、私の都合のいい幻覚だったのかもしれない。
「有働くん、行こう…っ、」
気がつくと私は、有働くんの腕を引っ張って思いきり走り出していた。
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