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走りながらも、目に焼きついた映像が離れない。
一瞬見えた、杳子さんの横顔。
艶やかに靡いていたショートヘア。
タイトスカートから伸びたすらりとした長い脚。
長い睫を綺麗にカールさせて新堂さんを見つめる横顔には、余裕と自信が漲っていた。
『最近綺麗になったって評判だよ』
以前、編集長が私にそんなことを言ってくれたけど、全然そんなことはない。
杳子さんの方が圧倒的に綺麗だし、新堂さんの隣りに並んでいて、お似合いだった。
そう思うと、もう私の思考は止まらなかった。
杳子さんはデザイン科を出ていて編集部にも長く居て、私よりずっと頼りになる。今回の件で私と交代で杳子さんを指名したのは、新堂さん本人なのかもしれない。
(あぁ、もしかして……)
『別の人に振られたばっかりで寂しくてって感じで、すぐ終わるかなって思ったけど意外と続いちゃった。
でも…やっぱりダメね。なんだかんだ忘れられなくて、少しズレを感じたら見ない振りできなくなっちゃって』
杳子さんが彼氏と別れたと言っていたときの話。杳子さんが、忘れられない人。
(あれって…もしかして新堂さんのことだった?)
二人はもしかしたら、大学時代に付き合ってたのかもしれない。
さっき目にした光景と、今までのいろんな記憶の糸が繋がっていく。
反対に、私と新堂さんとの糸は今この瞬間に切れてしまったのだと――そうはっきりと現実を突きつけられたような気がした。
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