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有働くんは業務委託契約を結んでいて、今はうちの編集部に常駐してくれているカメラマンだ。でも、次の更新をしないということは。
「それは…うちを辞めちゃうっていうこと?どうして?」
今の編集部に来る前も、ファッション雑誌の編集部にいて会社との付き合いは長かったはずなのに。
「櫻井のせい」
「わ、私?!」
「っていうのは冗談だけど。どっちかというと櫻井のおかげって言った方がいいのかも」
首を傾げる私に、有働くんは笑いかける。
「ほら、同じタイミングで配属されて最初に会ったときに、憧れのデザイナーがいていつか絶対取材したいんだって話してただろ」
「うん」
「あのとき内心無理だろうなって思ってた。聞けば聞くほどハードルが高そうだし、実際にその後何度も断られていたし。
でも、その後取材させてもらえることが決まって連載記事も持ててって、櫻井が夢を叶えていってるのを見ていたら…俺は何でカメラマンを目指してたんだっけって思うようになってさ」
有働くんは話しながら、広場の前を行き交う人を目を細めて眺めている。
「何気ない日々の営みとか季節の移り変わりとか、自然な人の表情の一瞬とか。そのときにしかない空気感っていうの?そういうのを写真に残せるカメラマンになりたかったんだよなって思い出したわけ。
でも、そういうので食って行こうと思ったらなかなか難しいし、これからこっちで彼女と暮らすのに夢ばっかり追っていられないってのもあって忘れたふりしてたけど…櫻井に感化されたっていうか触発されたっていうか、俺ももう一回目指してみたいと思った」
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