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もしかして、彼女さんと別れたのもそれが一因なのかもしれないと思ったけれど聞くのはやめた。
もしそうなら、有働くんの決断は簡単なものではなくて、すごく悩んだ末のものだと思ったから。
「俺にも憧れのカメラマンがいてさ、その人に弟子入りをお願いしてみるつもり。実は今日の撮影も仕事じゃなくて、その人に送るつもりで撮った写真なんだ。
たぶん断られるだろうけどそれで諦めるんじゃなくて、櫻井みたいに何度でもあたってみようと思ってる」
有働くんの笑顔は今日一日撮影していたときと同じように楽しげで、吹っ切れたみたいに清々しくて良い顔をしていた。
「編集部のみんなは、もう知っているの?」
「いや、今のところはまだ編集長だけ。次の更新までまだ数ヶ月あるし、だからこれまで通りよろしく」
「うん…」
有働くんの笑顔が眩しくて、今の自分と否が応でも比較してしまう。
「…なんか、すごいね」
「何言ってんだ、焚き付けたのはそっちなんだからな」
「私は何もしてないよ。それに、私はもう…駄目になっちゃったもん。取材だって私はもう必要じゃないんだよ」
『先方からの依頼なの。担当を変えてくれって』
あの言葉とさっき見た光景。
それが答えだ。
「まだ分かんないだろ。もう一回最初みたいに気持ちを言ってみたら?」
ーーー最初みたいに?
私は最初にオファーを出したときからこれまでのことを思い返して、力なく首を振る。
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