4996人が本棚に入れています
本棚に追加
「初めの頃は、思っていることを何でも言えてた。ずっと憧れてたことも、取材をさせてほしい理由も全部。気持ち悪がられても引かれてもいいって、伝えたいことは伝えないとと思ってたけど」
でも、今はそれがまったくできない。
いつからだろう?
この一言でどう思われるだろうか?忙しい新堂さんの手を煩わせてしまうだろうか?嫌われるかな、呆れられるかな?
何かをするにも話すにも、そんなことばかり考えてしまって何も言えなくなってしまった。
(なんでだろう、こんなに好きなのに)
『お前が好きなのは、デザイナーとしての新堂梓真なの?』
違う。デザイナーとしてだけじゃない。
私の感性を褒めて励ましてくれたり、風邪を引いたと聞いて駆けつけてくれたり、ちょっと子どもっぽく拗ねたり、そんないろんな新堂さんが好きだった。
他の人のところになんていってほしくない。
でももう、切れてしまった糸の直し方が分からない。
「…切れたわけじゃないだろ。こんがらがりすぎて、どこからどう解いていけばいいのか分かってないだけじゃん。お互いにさ。だったら、一つ一つ解いていくしかないんじゃないの?」
そう言って、有働くんは私に持っていたカメラを渡してくれた。
「新堂さんの話してるときの櫻井、良い顔してる」
ほら、と見せられた液晶画面には、さっきアパレルショップの前で有働くんに撮られた私のーー満面の笑顔が写っていた。
最初のコメントを投稿しよう!