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作品の横には制作過程やコンセプトなどが書かれたパネルも展示されていて、そこには制作秘話などもところどころに添えられていた。
「制作年とかタイトルだけじゃなくて、こういうエピソードがあると親近感が湧いていいですね」
「最初はこういうの、載せるつもりはなかったんだけどな」
「え、そうなんですか?」
私が聞き返すと、新堂さんは少しだけ黙ってから口を開く。
「でも櫻井の取材を受けて、昔の資料引っぱり出したり過去の作品のことを整理しているうちにいろいろ思い出してきて…イベントの担当者からも『面白いですね』ってやたら乗り気でさ」
新堂さんはそう言って、パネルを指でなぞりながら私に目を向けた。
「だから、取材受けてよかったと思ってる」
―――取材を受けてよかった。
そう言ってもらえて純粋に嬉しい。
でもそれは『今までありがとう』と言われているようにも聞こえた。
こうしてわざわざ案内してくれるのも、新堂さんなりの優しさなのかもしれない。そう思うとどうしようもないほど胸を締め付けられる。
「ほら、早くしないと残りを見る時間がなくなる」
立ち尽くしたままの私の手を、新堂さんが取った。
私は驚いて新堂さんの顔を見上げる。
だって、もう地下1階の展示はすべて見終わったはず。
「展示ってこれが全部じゃないんですか?」
「今日公開したのはここまで。この先はレセプションでも公開していないエリア」
(公開していないエリア…?)
そんなの、最初の会場デザインにはなかった。
私はただ新堂さんに手を引かれるままに、天井から垂らされた白い幕を向こうへと促される。
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