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座った瞬間にふわりと揺れて、椅子に座ったと思えない浮遊感があった。
私はそのまま体の力を抜いて上を仰ぎ見ると、天井からの淡い青の照明が無色透明なアクリル越しに見える。
自分はたまご型のそれに包まれながらゆったりと規則的に揺られていて、まるで泡に包まれて海の中を揺蕩っているみたいだと思った。
「…すごい、本当に海の中にいるみたいです」
「それならよかった。もし本当に人魚がいるとしたら、海の中で座るのはこんな椅子かなと思って」
「…人魚？」
「何だよ、自分が言ったこと忘れた？」
『こんなに大きな水槽だったら、人魚だって暮らせちゃいそう』
人魚姫の映画を思い出して何気なく呟いた一言。
てっきりバカなことを言っていると流されていたと思っていたのに。
「で、でも、いったいどこが未完成なんですか？」
「完成した。今」
「……はい？」
その言葉に私は狐につままれたような気持ちになる。
どういうこと？さっきまで未完成だといって、今は完成しているという。
新堂さんはゆっくりこちらに向かって歩いてきて同じように台へと上ってくると、まるで種明かしをするみたいに微笑む。
「この作品名は『Beautiful 'Spring'』
言ってただろ、俺が作った椅子に座ってみたかったって」
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