14. きみがため〜新堂Side

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14. きみがため〜新堂Side

もともと『誰かのため』に作るつもりはなかった。 だからどうしてと問われれば、初めて個展を開くなら一つくらい新作を発表しないと格好がつかない――そう思ったから。 けれど、少しずつ開催に向けての準備が動き始める中で、抱えている案件も捌かなければならない。 空いた時間でいくつかデザインを描いてみるが、悪くはないものの今一つしっくり来ずボツ案の山だけが積み上がっていく。 この程度なら発表するほどのものではないように思えて、それ以降まったくペンが進まなくなった。 そして完全に煮詰まっていた頃、櫻井が熱を出したと聞いて見舞いに行った。 簡単な夕食を食べて片づけを終えたあと、そのまま自分は帰るという選択はなかったので櫻井の様子を見に戻る。 ベッドに入っていた櫻井はよく眠っていたが、掛け布団がずれて体が半分外に出ていた。 暑いのかもしれないが熱が出ているときは汗をかいた方がいいと聞く。 なるべくずれないようしっかりと掛け布団を掛け直してやってから、汗ばんでぺったりと額にはりついた前髪を払いながら寝顔を眺める。 すると、今まで自分の中に眠っていたアイデアが目覚めるような、そんな感覚がした。
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