3. その呼び方はやめてください

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「さて、まずはどこから片付けよう…」 ぐるりと部屋を見渡して、まずは床に散らばった紙の束を拾うことにした。そうしないことには本当に足の踏み場もなくて、身動きが取れない。 床にしゃがみ込んで1枚ずつ拾い集める。 「……あ、これ全部デザイン画なんだ」 手書きで描かれたラフなものから、パソコンでかなり緻密に再現されたものまで、あらゆるデザイン画だった。 少し変わった形のグラスのラフスケッチに、メンズ用化粧品のパッケージデザイン。レストランの内装設計デザインもある。プロダクトだけでなく店舗デザインも手掛けているのは知らなかった。 当たり前だけど、手書きのものもとても巧い。 何というか線にブレがない。 こんなふうにサラサラと描けたら、きっと楽しいだろうな。 そんなことを思いながら1枚1枚見ていくと、ふと新堂さんからボツ案をシュレッダーにかけるよう言われていたことを思い出した。 ―――ということは、今ここで見ているものは全部ボツ案ということ? 「嘘、もったいない…」 捨ててしまうくらいなら、私が持ち帰りたいくらいだ。 もちろんそんなことは絶対しないけど。 いくらボツ案とはいえ、このデザインを考えて生み出すのにかかった労力や時間を思うと、それをシュレッダーにかけていくのはなかなか気持ちが沈む作業だと思った。 はっきり言えば気持ちが進まないし、やりたくない。
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