3. その呼び方はやめてください

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自分の企画のボツ案を捨てるときですらガックリするのに、それを自分以外の人、あの新堂さんが生み出したものだと思えば尚更だった。 (…シュレッダーをかけるのは、また後にしよう) 拾い集めたデザイン画はとりあえずテーブルの上にひとまとめにして、丸められた紙くずはゴミ箱に捨てる。そうしてようやく床は綺麗になった。 それから私は、まず本棚の整理に取り掛かることにする。 CG系の参考書や画集、コンセプトアート本、風景系の写真集などなど、ざっと見ただけでも数百冊はありそうな本棚は、ここの作業スペースを象徴するようなカオスさだ。 ジャンルもサイズも統一感がないし、棚の中に平積みされていたり、縦に納められた本の上に横向きに積み重ねられたりして、どこにどの本があるかまったく分からない。それに絶対に取り出しづらい。 「私も几帳面な方じゃないけど、さすがにこれは…」 まずこれをどうにかしないと。 私は手近な棚から取り出して、まずはジャンル別に仕分けることから始めることにした。 「お、重い……!!」 写真集やアート集などの本は、上質紙で表紙もハードで重厚な物が多いのでとにかく分厚くて重い。 何度も本棚とデスクの間を往復しているうちに、デスクの上はあっという間に置く場所がなくなってしまい、せっかく綺麗にしたはずの床の上に積み重ねるしかなくなってしまう。 ようやく本棚の一角の中を空にできたときは、達成感でぐったりしてしまった。 そのとき、スマートウォッチのアラームが鳴る。 時間は17時。 もうそろそろ帰らないといけない。 この2時間でかなり疲労したのに、ぱっと見はほとんど変わっていないどころか、初めに来たときより雑然と見えてしまうのが何だか悲しい。 (これ、本当に終わるのかな…) 私は明日からの作業に思いを馳せて、少し遠い目になった。
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