3. その呼び方はやめてください

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私は次の日も、また次の日も15時ぴったりに新堂さんの事務所を訪れていた。 今日はちょうどクライアントとの打ち合わせ中らしく、私はインターフォンを押さずに事務所の中へと入った。 そして、そろそろ見慣れてきたいつもの作業スペースへと進む。 昨日までに本棚の本をすべて出して、ジャンルごとの仕分け作業が終わっていた。 今日はジャンル分けした本をサイズ別にまとめて、本棚に収納していく作業に取り掛かる。 仕事でよく使うと思われるモデリングやPCソフトの参考書、デザインに関する専門書などは、取り出しやすく目につきやすい上段〜中段に。 分厚くて重そうな写真集や作家の作品集、図鑑などは本棚の一番下にそれぞれ収めていく。 「終わったぁ…!」 1時間ほどかけて全部の本を棚に並べ終わった。 私は整然と並ぶ本に達成感でいっぱいになる。これでかなり使いやすくなったんじゃないだろうか。 ちょうどそのとき、打ち合わせ後にクライアントの見送りを終えた新堂さんが戻ってきた。 「新堂さん!お疲れ様です、それからお邪魔してます」 「あぁ…」 やや疲れた様子で部屋に入ってきた新堂さんは、顔を上げるとびっくりした表情に変わって足を止めた。 「あ、あの、どうかしましたか?」 「この本棚の整理、一人でやったのか?」 「?はい、そうですけど」 どうしよう、何か失敗してしまっただろうか。 新堂さんが棚に近づくのをドキドキしながら見ていると、指で背表紙を確かめるようになぞっている。 「これは?」 「それは、ここに来る前に買った仕切りスタンドです。そうすれば本が倒れたり横なだれが起きるのを防げるかなと思いまして」 ブックエンドだけだと重さに負けて倒れちゃうのをどうにかしたくてたどり着いたのが、この仕切りスタンドを使うことだった。仕切りの間に本を入れ、それを棚の間に収納するとブックエンド代わりにもなる。 本当はフライパンなどを横並びで収納するのに使うキッチン用品なんだけれど、サイズ的にも本棚にぴったりだった。まさにシンデレラフィット。 「へぇ、こういうのがあるんだな。本が倒れると毎回直すのが面倒で、その上に重ねて置いたりしてた」 「分かります、それが積み重なってぐちゃぐちゃになっていっちゃうんですよね。気に入ってもらえましたか?」 「あぁ、結構才能あるんじゃねえの?」 「え?」 「雑用係の才能」 「その褒められ方嬉しくないんですけどっ」 普通に褒めてくれたらいいのに! 私は少し口を尖らせると、新堂さんは笑いながらまた本棚を眺めている。
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