1. 助けてくれたのは

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私は咄嗟に体を捻って、自転車に突っ込むことは何とか免れる。 けれど、一度崩れたバランスを立て直すことまではできず、そのまま歩道に膝を打ちつけて派手に転んでしまった。 その瞬間に、肩掛けバッグの中の財布や名刺入れ、資料を入れたファイルなどがバサバサッと音を立てて散らばる。最悪の事態は回避できたものの、これはこれでなかなかの大惨事だ。 ――あぁ、こんなときに何やってるんだろう。 行き交う人が横目に見ながら、避けるようにして歩いているのが分かる。 無言の視線と、擦りむいて血が滲んだ右膝がズキズキする。痛いし恥ずかしいけれど、とにかく立ち上がらないと。 「立てる?」 そのとき頭上から声が降ってきて、私ははっとして顔を上げた。 白シャツの上から黒ジャケットを羽織り、シルバーフレームの眼鏡をかけた一人の男性が、私の前に立ち止まって見下ろしている。 (すごく綺麗な手……) 差し伸べられた手を、私はまじまじと見つめてしまう。 「おい、聞いてる?」 「あ、はいっ、」 そうだ、見惚れている場合じゃないし、散らばったバッグの中身を拾わなければいけないのに。 「手のひらも擦りむいてるみたいだけど」 右の手のひらを見ると、手首に近い下の方も血が滲んでいた。 たぶん、転んで手をついたときに擦ったんだろう。 慌てて引っ込めようとするも手首をぐいっと強く引かれて、私は勢い余って前につんのめりそうになるのを何とか堪えた。 「俺が拾うから。ケガ人が立ってても通行の邪魔だし向こうで座っとけよ」 「すみません…」 私は痛む右足を少し引きずりながら端に寄ると、ブロック塀にある段差に腰掛ける。
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