1. 助けてくれたのは

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「これで全部だと思うけど、念のために確認して」 男性は歩道に散らばったバッグの中身を、手際よく拾い集めてくれた。 「ちゃんと全部あります。すみません、拾っていただいてありがとうございます」 私は渡された資料やポーチ、財布などを受け取ってバッグの中にしまうと、お礼を言って頭を下げた。 「歩けそうか?無理そうなら救急車呼ぶ?」 「いえそこまでは!歩けるので大丈夫です」 「足首捻ってるかもしれないし、とりあえず病院行ったほうがいい気がするけど」 「そんなにひどいケガじゃないですから。それにこの後は大事な打ち合わせがあって、遅れるわけにいかなくて」 そう言って、軽くつま先をトントンと叩く。 私としては問題ないことをアピールしたつもりだったけれど、目の前の男性は眼鏡の奥から非難めいた目を向けている。 「大事な打ち合わせね。打ち合わせの場に足引きずって膝から血流してる女が現れたら引かれると思うけど」 「で、でもすごく忙しい人で、というか会ってもらえるだけで奇跡のような人なんです」 「なんだそれ、アメリカ大使にでも会うわけ?」 「私にとってはそれ以上なんです!」 軽く鼻で笑われて、思わずムキになってしまう。 そのとき、男性は足元に落ちていた何かに気づいてそれを拾い上げた。 「… 文董社(ぶんとうしゃ)櫻井泉(さくらいいずみ)?…そういうこと」 (あれ、私の名刺…!) 男性は一人で何か納得したように呟くと、面白そうに私を見やる。
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