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「すみません、相談もなく勝手に受けてしまって…」
「まあ確かに前例がないと言えばないけどねぇ…。でもデザイナーってそういう個性的な人も多いからさ、まずは懐に入ってみるって意味ではチャンスではあるわよね」
ジョッキの残りを飲み干しながら、園田編集長は話を続ける。
「櫻井さんも、新堂さんの取材がしたくてこの業界に入ったんでしょ?企画書作りも熱意を感じたし、新堂さんにもそれが伝わったのかもしれないじゃない?
聞いた感じだと事務所にべったり行く必要はないみたいだし、手持ちの仕事とうまく調整しながらやってみるのはアリじゃないかな。その辺の割り振りは杳子ちゃんよろしくね?」
軽くウィンクをして、杳子さんは「はい」と頷く。
主任や編集長に相談せずに新堂さんの条件を受けてしまったことが少し引っかかっていたので、園田編集長に背中を押してもらえたのは心強かった。
雑用だろうとなんだろうと、やると決めたからには精いっぱいやろう。
「私、頑張ります!」
「そうそう、その意気よ。あ、有働くんお疲れーこっちこっち」
編集長が手を振る先を見ると、遅れていた有働くんがやってきて私の前の席に座った。
「お疲れ様です」
「お疲れ、とりあえずビールでいい?」
有働くんは私と同じく、今年からこの編集部に配属になったフリーの常駐カメラマン。年齢も同じなので同期のような感覚でとても話しやすい。
「ああ頼む…って、櫻井その右手どうした?」
私の前の席に座っていた有働くんが、右手の絆創膏に気づいた。
「そういえば右膝もケガしてたよね?」
「あっ、えーっと、実は駅で転んでしまいまして…」
隣りの杳子さんからも指摘を受けて、おっちょこちょいですよねと私は笑いながら適当にごまかした。
まさか助けてくれた人が新堂さんと気づかないだけでなく、お姫様抱っこまでされたなんてとても言えない。
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