51.カミルの不在が話題

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51.カミルの不在が話題

「ウルリヒ、カミルをどこへやった?」  昼間、お犬様になっていたとは思えない貫禄を漂わせ、猛将は友人を見据えた。元皇帝である彼が用事を言いつけたのは、聞いている。まだ戻らないことに、厄介ごとかと眉を寄せた。 「お使いを頼みました」 「どこへ?」  一番嫌な質問から入る。この勘の良さは驚きだった。状況を知らないはずなのに、的確に相手の痛いところを突いてくる。この鋭さこそ、ルードルフの武器だった。戦場でもこの勘が役立っている。 「……さて」  どこだったか、濁す口調に将軍の眉尻が上がった。これ以上茶化すと、本気で怒られそうだ。ウルリヒは早々に降参を表明して手を挙げた。 「分かりました、ルベリウスですよ」  敵地の名を聞いても、ルードルフは気にしない。それどころか、裏を読むように考え込んだ。真っ直ぐな男だが、表しか知らない阿呆ではない。傭兵団をまとめ上げ、一族を食わせて豊かな生活をさせる程度には、才能があった。  ウルリヒは彼の反応を待つ。 「囮にしたのではなくて?」  ルードルフの隣で、薄焼きパンに野菜と肉を包む美女が口を挟んだ。バランスよく食材を載せ、くるくると見栄え良く仕上げる。最初は戸惑っていたのに、今では慣れてしまった。  ゼノが感心する器用さで巻いた薄焼きパンを、ルードルフの口に押し込む。お茶会からずっとこんな感じなのか。ウルリヒは吹き出しそうになる口を押さえた。ここで大笑いしたら、友人をなくす。 「人聞きの悪い表現ですね」  否定しているように聞こえるが、返答せず濁した。ウルリヒの受け答えに、アンネリースは確信する。副官カミルを囮にして、何かを誘き寄せるつもりね。口角を持ち上げて「知ってるわよ」と匂わせ、ハンカチを取り出した。  タレで汚したルードルフの口の端を、丁寧に拭う。恐縮するルードルフだったが、すぐに我に返った。 「なぜカミルを使った?」 「彼が有能で強い男だからです。敵地でも単独で生き残れるのは、スマラグドスの男ぐらいですから」  褒める方向に徹したことで、ルードルフは唸りながら文句を引っ込めた。便利な男だから借りた、どうせ死なないからと聞き取れるのだが。この隠された言葉を聞き取る役が、カミルだった。  帝国貴族のご令嬢が攫われ、スマラグドスの男が助けた。無事戻ってきてほしい両親の願いと裏腹に、彼女は傷つけられていた。親は娘を諦め、代わりにご令嬢は己を助けた男の妻になる。彼女が産んだ息子がカミルだった。  貴族の優美な外見と穏やかな話術、スマラグドスの勇猛さを併せ持つ珍しい存在だ。貴族の振る舞いができる傭兵は、皇帝だったウルリヒにとって、喉から手が出るほど欲しい部下だった。結局、ルードルフは手放さなかっったが、今は部下も同然である。 「上手に言い繕っても無駄よ。今後の作戦をすべて話しなさい」  命じるアンネリースは、カミル以上に稀有な存在だった。得難い有能で美しい主君に、ウルリヒは「仰せのままに」と首を垂れた。
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